この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

「このくらいの時期だったんだろ」
「なにが……」

 それだけ返して黙りこんでいると、城戸が小さく息を吐いた。

「俺が気づいてないと思った? 四年も一緒にいたんだ。それくらいわかる」
「……どうして」
「俺にはお前が、自分のことを責めながら生きてるように見えるから。今まで警護してきた女の人たちみたいに」
「…………」

 それ以上はなにも聞こえなくなった。車内に流れる音楽も、濡れるフロントガラスを拭うワイパーの音も。無音映画のように流れる夜の景色。

――思い出しては、だめ……。

 なんでもいいからほかの記憶を辿ろうとしても、鈍器で殴られたように頭が激しく痛み、黒い影が心を覆いつくそうと迫ってくる。
 城戸は黙って返答を待っている。その横顔はかたくなに前を見据えたまま、ぴくりとも動かない。

 そのとき不意に、あの人の横顔が思い出された――。窓の外を見つめ、『雨はお好きですか』と言ったその哀しげな顔は、なぜか涼子の心に小さな火を灯した。
 その瞬間の気持ちがよみがえると、風が吹き荒れていた心に自然と静けさが戻ってきた。その木漏れ日のような心地よさの理由は、わからない。

「城戸くん、ごめんなさい。ここで降ろして」
「えっ、でも雨……」
「お願い。私は大丈夫だから。今日はもう、これで」
「わ、かった。……ごめん、無理やり聞き出そうとして」
「いいの。話せるときがきたらちゃんと話すから。本当にごめんなさい」

 それから路側帯に車を停めてもらい、自らドアを開けて車を降りるまで、涼子は城戸の顔をまともに見ることができなかった。
 城戸は悪くない。悪いのは、弱い自分自身なのだ。

/429ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ