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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

 何切れかのホワイトチョコレートが乗った小皿が、静かに差し出された。注文はしていないはずだ。

「これは……」
「おつまみにどうぞ。サービスです」
「すみません。ありがとうございます」

 一つ取って口に入れると、塩気のある甘みが広がった。好みの味に自然と頬がゆるみ、同時になぜか涙腺もゆるんだ。雨で湿った髪をタオルで押さえるふりをして、西嶋に見られないように目尻を拭う。

 しばしの沈黙が流れたあと、西嶋がゆったりとした口調で話し始めた。

「まさか今夜も来ていただけるとはね」
「ちょっと飲みたい気分だったので」
「そんなに濡れてまで」
「……はい」

 そのまま店内は静寂に包まれる。長い沈黙を破ったのは、またしても西嶋だった。

「涼子さん」
「…………」

 呼びかけに応じようとするも、切ない吐息が漏れるだけだった。

「どうして泣いているのですか」
「な、泣いてません」

 とっさに顔を上げて反論したが、意に反して湧き上がってくる涙を見られないようすぐに俯く。グラスを取った手に一粒のしずくが落ちた。怒りなのか、羞恥心なのか、手が震えている。

 カウンターを挟んだ前にいた西嶋の気配が、突然、遠ざかっていった。その足音はカウンターを抜けて客席側に回ると、こちらまで歩み寄ってきた。
 斜め後ろに立つ男の気配が、周囲を包む空気をがらりと変える。背中に緊張が走った――。

「では、これはなんです?」

 白い手に落ちた二粒目の涙を、骨ばった長い指がそっと撫でる。

「なにかあったのですか」

 耳元で響く低音が鼓膜をくすぐり、脳がじわりと熱くなる錯覚に襲われる。それでも押し黙っていると、ついに持っているグラスを抜き取られてしまった。
 西嶋の大きな手がそれをカウンターの上に置くさまを盗み見る。グラスの底で、淡い黄金色がかすかに揺れた。

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