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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

「涼子さん」

 落とされた低い声にひかえめな視線で応えれば、目の前で美しいヘーゼルの瞳が揺れた。そこにあったのは、笑うわけでもなく、困っているわけでもない、真剣なまなざしだった。
 誰かからこんなふうに見つめられるのは初めてかもしれないと気づき、涼子は言葉を失う。その瞳から逃れようと視線を泳がせた次の瞬間には、頬を伝う涙を長い指の背で拭われていた。

「やっ、やめてください」
「嫌ですか」
「は、い……」
「そうは見えませんが」
「いやですっ……。昨日初めて会ったばかりなのに、いい加減なこと言わないで」

 そう言って睨んだつもりだが、実際には自分がどんな顔をしているか見当もつかない。一方、目の前にある端正な顔は表情を変えない。目を合わせなければよかったと後悔したのもつかの間、こちらを見下ろす瞳に熱が灯った。

「だったらなぜ、そんな顔をして俺の前で泣いてる」

 西嶋の口調から、優しさが消えた――。

「誰かになぐさめられたくてここに来たんだろう」
「ち、ちが……っ」

 勝手に溢れ出した大粒の涙はそのままに、首を左右に振って否定する。

「違うのか?」

 心なしか艶めきをまとったかすれ声に問われ、身体の芯がぴくりと反応したような気がした。それをふりはらうように強く抵抗する。それが本心なのか、それとも単なる強がりなのか、もうわからない。

「誰にもなぐさめられたくない。誰からも優しくされなくていい。放っておいてください」
「目は逆のことを訴えているようだけど」

 西嶋はそう言い放った。その低い声は冷めているのに、その目は熱を帯び、彼は視線を離そうとはしない。

「違う……そんなわけない」

 目をそらして反論すると、大きな手に両肩を掴まれた。身をよじって抵抗するも無駄で、彼のほうに身体を向かされてしまった。再び涙がにじんで視界がぼやけてくる。

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