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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

「ふ、ん……やっ」
「嫌?」
唇がかすかに触れたままで尋ねられても、答える術はなく、熱い吐息が漏れるだけだった。その切なさをなんとか視線で訴えると、彼は困ったような笑みを返した。
「どっちだよ」
「…………」
やめてほしい。続けてほしい。自分がどちらを望んでいるのか判断できず、涼子はやはりなにも答えられなかった。
背中に回された手が身体を強く引き寄せ、しかしそれに反応する暇もないうちに、熱く湿った舌が口内に挿し入れられた。
「……っ、あ……」
しなやかに優しく上顎を撫でられる感覚に、身体の中心が疼く。西嶋のシャツを掴んで必死にその快感に耐える。艶めかしく蠢く熱い舌に思考が侵され、脳が溶けていくようだ。
永遠のように長く感じられる口づけのあと、ようやく唇を離されて彼を見上げると、その拍子にまぶたからこぼれた涙が一筋、頬を伝い落ちた。それを親指で撫でるように拭った彼が、ふっと口角を上げる。
「これじゃあ俺が泣かせたみたいだ」
微笑んだその瞳は優しく、官能的で、美しかった。
「なにがあったのか、言いたくなったら教えて」
火照った頬をもう一度撫でた西嶋は、その言葉を残して離れていく。小さく灯された火がそれ以上大きくなる前に、彼は静かに身を引き、その火を消してしまった。
カウンター内に戻るその背中を目で追いながら、残り火でくすぶる自分の身体を涼子はそっと抱きしめた。
それからしばらくして、まばらに客が来店した。西嶋と親しげに会話する者もいれば、黙々と酒を愉しむ者もおり、当然ながらどれも涼子の知らぬ顔であった。常連らしき客たちは落ち着いた雰囲気の人間ばかりで、女一人で飲んでいる涼子に絡んでくることもない。穏やかな時間が、ゆったりと過ぎていった。

