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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー
相棒に知らせるため電話をかける。何度かコールが鳴ったあと、受話口からかすれた声が聞こえた。
『ん……どうした』
どうやら仮眠中だったらしい。
「休憩時間にごめんなさい。ちょっと緊急事態」
『なにがあった』
「明美さんが外出しているみたいなの。偶然見かけちゃって」
『ちょっと待ってな。ええっと、GPSは自宅を指してるぞ。……持ってないのか?』
「おそらく」
『……わかった。とりあえず俺だけ合流するよ。場所はお前のGPSが示してるとこでいいのか』
「ええ。よろしく」
あの日以来、秘密を打ち明けることはまだできていないが、城戸はふだんどおりに接してくれている。この案件が落ちつくまでは余計な詮索はしないと決めたのかもしれない。
二十九日の今日は、涼子も実質的な休みをとることになっていた。週に一度の貴重な休日だ。日付が変わって交代要員の警護員に引き継ぎを済ませたあと、すぐにここに来た。あの人に一週間前の借りを返すために。
いざここに足を向けると、心はとたんに怖気づいた。『なにがあったか、言いたくなったら教えて』――そう一週間前に言ったことなど、彼は覚えていないかもしれない。それに今さら話したところでどうなるというのか。ここに着くまでに何度、頭を支配する不安を排除しようとしただろう。
それでも、涼子はあの日と同じように、自分の意志でこの場所を訪れた。どうしても確かめたかったからだ。彼のキスを拒めなかった、自分の気持ちを……。
本気で拒否しようと思えば容易にできた。同業者でもない普通の男相手なら、ふりはらうなど造作ないことだ。しかし不思議なことに、彼に対してはそれができなかった。