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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

 熱を帯びた瞳に見つめられ、たくましい腕に抱かれたとき、彼は男なのだと思い知らされた。そして、自分が女であることを自覚させられた。女らしさなど、ボディーガード業界に足を踏み入れた十年前に捨てたはずだったのに、西嶋に唇を奪われた瞬間、女の部分すべてが潤ったような気がした。
 あの日から、西嶋の発した言葉を、声を、唇を、思い出すたびに困惑した。タツに“恋する女”と言われたことも心に張りついて離れなかった。それが自分自身を表した言葉だと自覚することに、少なからず抵抗心を抱いた。自分の中にひそむ女をずるずると引き出されていくようで、怖かった。

 それが西嶋への恋心なのか、それとも久しぶりに男に触れられて動揺しただけなのか、今でもよくわからない。だが様々な考えを巡らすうちに、涼子はある答えに達した。
 もう一度、会ってみよう。会って、自分の気持ちを知りたい――と。

 しかし、その前に片づけなければならないことが起きた。
 深く息を吐き、周囲の異様な空気に瞬時に反応できるよう、集中力を高める。これからやることはあくまで個人の意思、業務外の行動だ。城戸の到着が間に合わなくても、のんびり待ってはいられない。

 しばらくすると、路地を足早に歩いてくる一人の男が目に入った。全身に緊張が走る。肩にかけているバッグを足元に置き、涼子は息を止めた。
 男はなにかを探すようにせわしなく首を動かしながらここに向かってくる。その手には赤色のハイヒールがぶら下がっている。街灯に照らされたその姿が、暗闇に浮かび上がる。
 くたびれたスーツが以前よりみすぼらしさを感じさせるが、間違いなく、明美をストーキングしていた男――小林雅人だった。

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