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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

怒りと恐怖が混ざり合った感情を可能な限り静め、涼子は男を見据えた。鋭い視線に気づいた男は、血走った目をよこし、突然叫び出した。
「おい! なに見てやがる」
「それ、女性物の靴よね。どこで拾ったの」
「てめぇに関係ねーだろ」
「持ち主が困ってるんじゃないの」
「うるせえっ!」
男はそうとう酔っているのか、目の前に立つ女があのとき自分を倒した女だと認識しているのか定かでない。甲高い大声が、ひとけのない路地に響く。
「あいつはどこだ!」
「誰?」
「小夜子は俺のだ! あいつのせいで、あいつのせいで、俺は!」
「……あなたのじゃないわ」
怒りを抑えて低く言い捨てた瞬間、男の顔色が変わった。
「てめぇ……小夜子をどこに隠した!」
その必死な形相に背筋がざわつき、吐き気さえ覚える。
そのとき、ビルから見知らぬ男女が出てきた。ただならぬ空気を察して一瞬足を止めた彼らは、話し声を極力小さくして離れていく。男のほうがズボンのポケットから携帯を取り出し、どこかに電話をかけているようだった。
見られていたことに気づかないほど興奮している小林は、また大声をあげる。
「お前も俺を邪魔するのか。だったら殺してやる。小夜子も、お前も、あいつも、殺してやる!」
「あいつ? 誰のこと」
「うるせえ! 殺してやるんだ!」
もはや言っていることが支離滅裂している。この男にはその自覚がないのだろうか。
突然、男はハイヒールを地面に叩きつけ、ズボンのポケットからなにかを取り出した。涼子は身構える。
男がその柄(え)のようなものから刃を出すと、それが折りたたみ式ナイフであることが証明された。刃渡り十センチほどはありそうだ。
「それで私が怯むと思ってるの?」
わずか三メートルの距離にいる男に冷たい視線を向ける。

