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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

「実は学生時代からの付き合いでね」
「えっ……そうなんですか」
「驚いた?」
「そんなふうには見えませんでしたから」
答えながら、まったく読めない男たちね、と涼子は心の中で毒づいた。とことん自分の観察眼が惑わされている気がして悔しくなる。
「無理もないよ。あの堅物は仕事とプライベートの差が激しすぎるし、隠し事もうまいからね」
「でも、西嶋さんだって……」
「ん? 俺も人のこと言えないか」
「いえ」
「ははは。いいよ、気を遣わなくて」
こちらの思考は十分に伝わってしまっているようで、西嶋は目を細め、優しさと悪戯心が同居したような含み笑いを浮かべた。
いつも柔らかな物腰の西嶋と、堅物で鋭い言動の藤堂――彼らの共通点は、表と裏がはっきりしていることだ。オンオフの切り替えがうまい器用な人間なのだろう。
仕事にプライベートを侵食されつつあり、ふだんから裏表のない犬男と一緒にいる自分には、そんな男たちの裏を見破るほどの免疫がない。そう思うと妙に納得でき、同時に、いかに自分が男を知らなすぎるかを痛感して恥ずかしくなった。
七階に着いたエレベーターを降り、通路を進む。
隣を歩く西嶋。その横顔はやはり完璧なほどに整っている。黒いシャツの襟元から覗く喉仏――男らしさと色気が凝縮されたその突起が、わずかに上下した。西嶋がくつくつと笑い出したのだ。
「髭の剃り残しでもあったかな」
おかしそうに崩した表情を向けられ、見つめすぎていたことを自覚する。
「ごめんなさい……」
「いいえ」
優しく微笑んだ彼は、ゆっくりと前を向いた。
狭く短い通路。店の扉が目の前に迫る。並んで歩く西嶋との距離は、たったのこぶし一つ分。
二人を取り囲む空間すべての距離感が中途半端に思える。言いようのないもどかしさをどう処理したらいいのかわからず、涼子は静かに下唇を噛みしめた。

