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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

“CLOSED”のプレートが掛けられた扉を引いた西嶋に目配せされ、中に入ると、すでにBGMが消された店内は静けさに包まれていた。入り口寄りの端の席に藤堂、そのすぐ奥に明美の姿が見える。その足元は、やはりなにも履いていない。
明美はこちらに振り返るなり、目を丸くした。
「涼子さん!」
「こんばんは、明美さん」
「あれ、知り合いだったの?」
扉を閉めた西嶋に尋ねられる。説明しようと口を開いた瞬間、明美が先に声をあげた。
「前にも一度助けてもらったことがあるの。で、今は私のボディーガードさん」
あんなことがあったにもかかわらず、気丈に振る舞う明美を不憫に思いながらハイヒールを差し出す。彼女は恥ずかしそうにそれを受け取り、足を入れた。
「ありがとう。逃げてる途中で脱げちゃって」
「明美さん。今日はどうして……」
「とりあえず君も座ったらどうだ」
藤堂が、煙草を咥えながら言った。西嶋同様、話し方をもとに戻す気はないらしい。
「なにか作るよ」
そう言ってカウンター内に入っていく西嶋の背中を見送ると、涼子は明美の隣に腰かけた。
「涼子さん、ごめんね。あいつを追い払ってくれたんでしょ?」
その問いに、首をかすかに横に振ることしかできない。実際に追い払ったのは藤堂で、自分はなにもできなかった。そう口に出せば涙声になってしまいそうで、感情を抑えこむので精一杯だ。
「涼子さん」
ふと声がしたほうに視線をやると、カウンターの向こうで西嶋が静かに微笑んでいた。
「今夜はまだ勤務時間中?」
「違いますけど……」
「そうかい。わかった」
それだけ確認すると、彼はまた薄く口角を上げた。大丈夫だよ――そう言ってくれているような温かい表情で。
その笑顔に背中を押され、私がしっかりしなければ、と心の中で自らに喝を入れると、涼子は明美に向き直った。

