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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

小林は、明美を本名で呼んでいた。水商売の女性が常連客に本当の名前を教えることがなにを意味するのか、その世界に詳しくない人間でもなんとなく想像がつく。あの男は明美にとって、以前は親しい客だったのではないだろうか。
それを彼女からの純粋な恋心だと勘違いした小林が、やがてストーカー行為に走るようになった。そう考えるのが自然である。
そしてエスカレートした行為の末、小林の怒りの矛先は別の第三者に向かおうとしている。それが誰なのかを知る必要がある。なにかあってからでは遅い。今回、銃刀法違反で現行犯逮捕された小林の処罰がどうなるかまだわからないが、できるだけ早くどうにかしなければ。
「明美さん……あのね」
「あいつ、なんて言ったの?」
「え?」
「私のこと、なんて言ってた? もしかして俺の彼女だとか言ったの?」
「…………」
「そんなの嘘だよ。ぜんぶ嘘。付き合ってすらいないのに、別れるなら死ぬとか殺すとか……そんなことする勇気もないくせに……!」
怒りに震える明美を目の当たりにして、なにも返せなかった。彼女の言葉を聞いた瞬間、遠い昔に聞いた声を思い出したからだ。
――あいつに人を殺す勇気はないわよ。大丈夫、涼子ちゃんは私が護ってあげる。
急な頭痛に襲われ、涼子は思わず額を押さえた。
「えっ、どうしたの!」
慌てる明美の声がする。
「涼子さん?」
西嶋の声も。
やがてそれらは激しい耳鳴りに変わる。耐えきれずに強く目をつむると、ざわざわとした騒音が頭の中を駆けめぐった――。
――涼子。君は僕の恋人だろう?
――どうして? 僕はこんなに好きなのに。
――おい、今ほかの男と話してただろう!
――どうして僕を無視するんだ。ひどいじゃないか。君を失うくらいなら死んでやる!
――殺してやる……涼子。お前を殺して僕も死ぬ……。

