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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

――大丈夫、涼子ちゃんは私が護ってあげる。
「……や、さ……っ」
「涼子さん……涼子さん!」
強く自分の名前を呼ぶ低い声にはっと我にかえり、声がした左側を向くと、いつの間にか隣の席にいた西嶋に肩を掴まれていた。
「どうしたんだ」
「あ、すみませ……もう平気です」
「本当に?」
「はい。ちょっと偏頭痛がして。でも大丈夫」
「……そうか」
西嶋は心配そうに眉をひそめたままだ。すると突然、それまで黙っていた藤堂が切り出した。
「体調が悪いようだな。これ以上はやめたほうがいい。……明美さん、だっけ? 話は俺が聞くから場所を変えよう。ほら、行くぞ」
「えっ、そんな急に。あなたと二人で?」
「下心は皆無だ。余計な心配はいらない。俺は年下には興味ないんでね」
あきらかに怪訝そうな明美に対してはっきりと言いきった藤堂は、煙草を一口吸うと灰皿に揉み消し、椅子から立ち上がってさっさと行ってしまう。明美は驚いた様子で絶句していたが、扉の前で振り返った藤堂の鋭い視線におとなしく従い、店を出ていった。
涼子にはもう、彼女を気遣ってやれる余裕などなくなっていた。
汗をかいた身体は、快適なはずの冷房の風を浴びて、ぶるりと震えた。
***
薄い琥珀色の液体が入ったホットグラスが差し出された。飾られているのはレモンスライスとクローブ。ソーサーにはシナモンスティックが添えられている。
カウンターの向こうには、優しい笑みを浮かべる西嶋がいる。
「これ飲んで落ち着こうか」
「ありがとうございます」
湯気を上げてほんのりと汗ばむグラスに触れれば、ぬくもりが指に伝わってくる。取っ手を持って口元に寄せると、スパイスやレモンとともにウイスキーが柔らかに香った。ウイスキーのお湯割りに、砂糖などで甘みを加えるカクテル――ホット・ウイスキー・トディだ。

