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琥珀色に染まるとき
第1章 雨に濡れたボディーガード

 まず向かったのは、コンクリート階段を降りた半地下にある、事務所所有のトレーニングジム。
 傘を閉じて入り口のガラス扉から中を窺うと、ひどい形相で走ってくる男が見えた。わざわざ無事を知らせるために顔を出してやろうと思ったが、その必要はなかったようだ。

 反射的に後ずさりすると、扉が開くと同時に、トレーニングウェア姿の大きな男が身を乗り出した。ここに来るまでに携帯を何度も振動させた張本人だ。
 服を着ていてもわかる、その鍛えあげられた肉体とはアンバランスな癒し系の犬顔が、高い位置から無遠慮に顔を覗きこんでくる。シャワー室から急いで出てきたのか、その黒い短髪は濡れている。

 城戸悠貴(きどゆうき)は、警護業務がない日によくここで身体を鍛えている。
 これも警護員の仕事で、涼子もときおり男たちに交じって護身術や格闘技の訓練に汗を流しているが、非番も休日も構わず鍛えにやってくる城戸は、ただの筋肉馬鹿といっても過言ではない。

「東雲、大丈夫か?」
「おはよう、城戸くん」
「怪我は?」
「私は平気よ。一度目の電話でそう言ったでしょ」
「ああ……ごめん、心配でさ。まったくお前は、いつも一人で無茶しやがる。この間だって……」

 ばつの悪そうな顔をしながらもしっかり説教を垂れてくる同僚に、涼子は苦笑を返した。

 階段で地上にあがり、ビルのエントランスに入ってからも、なかなか気分は晴れなかった。さきほどのストーカー男のせいだ。イライラしながらエレベーターを待っていると、隣に並んだ城戸が顔色を窺ってくる。

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