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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー

 ひざの上に置き去りにされていた握りこぶしは、今度は彼の右手に包まれている。俯きがちに窺うと、黒いシャツを着た広い胸がそこにあった。そのままゆっくりと目線を上げれば、男らしい色気を感じさせる首筋の先に、美しく整った顔がある。

 切なげに揺れたヘーゼルの瞳を見つめ、涼子は心の奥で願った。このまま抱きしめられたい。中途半端なこの距離を埋めて、隙間がなくなるほど強く抱きすくめられたい――。
 そして、形のいい唇を前に、こんな期待が胸の中に広がった。あの日と同じように、溶けてしまうような口づけがほしい――。

 今は不謹慎だ、と自制心が口を挟む。こんなにもはしたない想いは絶対に悟られてはいけない。なんてだらしない女なのだろう。そう自分を責めた矢先だった。

「なに考えてる?」

 低い囁きが、鼓膜を優しく撫でた。直後、左頬が大きな手に包まれる。熱を帯びた艶やかな視線にとらわれ、涼子はこぶしに力を込めた。

「あの日と同じ顔をしてるな」
「え……」
「今、なにを考えてる?」

 西嶋はもう一度尋ねると、ふっと口角を上げた。
 ああ、この男にはすべてお見通しなのだ――そう感じた瞬間、頭の中を固く支配していた理屈がいかに無意味なものであるかを思い知った。

 西嶋の前でなら、正直に泣くことができた。正直に怒ることができた。正直に怖がることができた。いったい何年ぶりの感情だろうか。
 それなのに、この想いを簡単に認めることのできない自分には、ここに来る正当な理由が必要だった。あの日の借りを返すためだとか、自分の気持ちを確かめるためだとか、そんなものは自らを納得させるための建前であると、心のどこかでわかっていたのに。こんなところに一人で来たのも、キスを拒めなかったのも、理由は一つしかないというのに……。

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