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琥珀色に染まるとき
第6章 静寂とホットウイスキー
わずかに離れた唇から抵抗の意思を示し、しがみついていた手をゆるめると、密着していた身体が少しだけ離れた。だが正面から顔を覗きこまれれば、黙って見返すことしかできない。
「だめなのか」
妖艶なまなざしを向けられる。無言を返すと、鎖骨を指先でなぞられ、涼子はびくりと首をすくめた。
「だって、ここじゃ……」
とろけそうな脳にかろうじて残っている理性を働かせたものの、なにがおかしいのか、彼は愉しそうに微笑む。
「だったら、どこならいいの」
「どこって……そんなこと……」
俯いてそれだけ返すのがやっとで、彼の広い肩に額をつける。
――そんなこと、言わせないで……。
少しずつ、だが確実に核心へと導かれていく。戸惑う自分と、それを望む自分がいる。
「顔を上げて」
耳元で漂う優しい声に応えられずにいると、頬にかかる髪を耳にかけられた。耳をやわく撫でるような指の動きに身体が勝手にびくつき、深いため息が漏れた。
腰を強く抱き寄せられ、尻のふくらみを絶妙な力加減で撫でまわされる。
「あ、あぁ……」
自然と色めいた声があがる。それをからかうように耳元でこぼされる低い笑い声にさえ、いちいち反応してしまう。耳たぶを甘噛みされると、身体の芯がぞわぞわと疼く。
「……出ようか」
色気溢れる男のかすれ声が、脳内にぐらりと響いた。
その瞬間、涼子は思った。この十年の間、ずっと放置してきたものを取り戻してもいいのではないか、と。
ここに来るのに正当な理由など必要なかったのだ。西嶋に会いたいと心が願ったから。また西嶋に優しくされたかったから。そして、こうされたかった――それだけだ。
あの雨の夜、すでに答えは出ていたのかもしれない。唇を奪われたあの瞬間、心まで奪い去られていたことを、今そのぬくもりに包まれながら涼子はようやく自覚した。