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琥珀色に染まるとき
第7章 慈しめば涙して
涼子の着ているスーツから鈍い振動音がした。はっとした表情を浮かべた彼女は上着のポケットに手を突っこみ、携帯を掴むと急いで電話に出る。
「もしもし、城戸くん? ごめんなさい、連絡しなくて。本当にごめん……」
電話の相手は男か、それとも職場の同僚かなにかか。
「え、藤堂さんが?」
その名前に、おや、と思い、スラックスのポケットから携帯を取り出して確認してみると、やはり藤堂からメールが届いていた。
――明美を警護事務所に送り届けた。城戸という男に早く連絡してやれと東雲さんに伝えろ。
しまった、と景仁は思った。自分が涼子に夢中になっていたせいで、涼子がその男に怒られる原因を作ってしまったのだ。
「うん、わかったわ。……大丈夫よ、ありがとう。ごめんね。じゃあ」
電話を終えた涼子が、すまなそうに眉を下げる。
「どうしたの」
「同僚や上司にすごく心配をかけてしまって……」
「ごめん。俺が藤堂からの連絡に気づかなかったから」
「いえ、悪いのは私ですから」
「それで、大丈夫だったのか?」
「藤堂さんがボディーガード時代、上司と親交があったみたいで。うまく説明してくれたそうです」
「はは、そういうことか。あいつもたまには役に立つな」
藤堂は勘が鋭く、よく気の回る男だ。周りの人間すべてをじっくりと観察し、最善の方法を見出す。そういう慎重なところは昔から変わらない。やはり秘書兼ボディーガードは藤堂の性に合っているし、それを見抜いた佐伯は優れた鑑識眼の持ち主なのだろう。
「明美さんのことは、同僚が無事に自宅まで送り届けたそうです」
「そうか。よかった」
「でも、普通なら許されないことを、私は……」