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琥珀色に染まるとき
第7章 慈しめば涙して

 ブラジャーの肩ひもをずらして腕から抜き取ると、それでもどうにか阻止しようと涼子が力なく呟いた。

「いや……見ないで……」

 両手で胸を隠して俯いてしまう。後ろからではその表情が窺えないため、肩を支えて振り向かせようとするも、やはり抵抗される。

「どうしたの」
「…………」

 返答がないのを不審に思い、景仁はベッドから降りると涼子の前に身をかがめた。

「こっちを見て」

 その頬を両手で包んで上を向かせたものの、不安げな表情で見つめ返される。なんだか様子が変だ。

「大丈夫。怖くないよ」

 優しく声をかけながら、いったいなにをそんなに嫌がっているのだろうと疑問が膨れあがる。
 すると、涼子がおもむろに腕を下ろした。そこには、白く綺麗な乳房が二つ。

「なんだ、隠す必要なんてないじゃないか」

 安堵感で思わず笑えば、涼子がかぶりを振った。

「違うの……」

 彼女は、黙って左胸の下あたりに指を置いた。
 しゃがんで見上げてみると、豊かなふくらみの下に火傷の痕のような小さな傷があった。それはまるで、煙草を押しつけられたような――。

「どうしたんだ、これ。泣いていたのはこれのせいか」

 気づけばそう口走っていた。自分からは聞かないと決めていたのに、あの日の涙とこの傷が脳内で繋がった瞬間、唇が勝手にそう動いてしまった。
 あのとき涼子が見せた泣き顔は、誰かによってもたらされたものだったのか。そう思うと胸の奥深いところに疼痛を覚えた。

「もう、何年も前のだから……」

 涼子はゆるゆると首を左右に振りながらそれだけ答えると、黙りこんだ。

 胸に触れたときに少しだけ手触りに違和感を覚えたことを、景仁は今になって思い出した。触るほうはそれほど気にならなくとも、触られるほうには複雑な思いがあるのかもしれない。

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