第5回 官能小説コンテスト ノミネート作品
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ノミネート愛しい記憶作者 奈々その他何もない俺に残ったものは──
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小林弘利先生
高いハードルが設定されていました。それは近親相姦。そして、この世のものではない人との性愛。
これはだから「愛の狂気」を描くべき作品で、なんども「狂ってる」という言葉が出てくる。
つまりこれは「性愛と言う名の狂気」を描かれている。なのに文章のスタイルをポエム風にしたことで、狂気が薄まりました。
こういう狂気というのは幽霊を抱いているトモヤをカエデが目撃しなければならないし、姉弟が愛し合う姿を目撃した母親の衝撃をもっと描かなければならないのです。
そういう第三者の目にどう見えているかを描くことが、このふたりが「ふたりだけの世界」に逃避せざるを得ない状況を作るからだし、読者もそこに共感を求めるわけです。
誰にも祝福してもらえない純愛。このせっかくのシチュエーションを「ムード」のみで乗り越えようとしたことが残念でしたが、とは言え、ウエブ小説の場合、そういう散文的な書き方が逆に読者の想像力を掻き立てるようにも思うのでB−としました。
けれど、やはり設定したハードルをもっと有効に使い「抱きたいのにそれができない」心理をもっと描きこんだほうがいいように思います。
トモヤのカエデに対するひどい扱いも、彼が「狂気」に落ちていることの現れだと描きこまないと、終始、自分の気持ちしか考えていない愚か男という印象になってしまいます。 -
神田つばき先生
既存の(男性向けの)官能小説やAVは男性がどんなふうに感じているか、の描写が少ないので今ひとつのめりこめませんが、この小説は肉体的にも心理的にも男をきちんと描いていて、深く愉しめました。ジャンルを「その他」としたことで一部から批判があったようですが、私はこれでいいと思います。おとなであれば「これは自分にはそぐわない」と感じた時点で読むのをやめればいいのです。また、最後でドタバタと辻褄をあわせてハッピーエンドにする作品が多いなかで、沈痛なまま世界を閉じた結末にも作者の底力を感じました。審査も終わった今、もう一度、今度は自分のために読みたいです。 -
大泉りか先生
サスペンス仕立てで、謎に引かれてどんどんと読み進めてしまいました。
近親相姦モノとはまったく想像もしておらずに、素直に驚いたので、作者の目論見は成功していると思います。通常、近親相姦を官能で描く場合は、葛藤とタブーを犯す背徳感がポイントとなってくると思うのですが、この作品では、わりとあっさりと関係を結んでしまったのが、少し物足りなく思えました。
多くの人々が経験することのできない、血のつながった身内とのセックスだからこそ感じられる、交わりの快感を書き込んだら、もっと官能作品として優れたものになったのではないかと思います。 -
深谷陽先生
行間を空けた描き方、ヒロインの正体や主人公の身の上に起こった出来事の隠し方、見せ方などが丁寧に考えられていて、読みやすく面白かったです。
主人公の抱えた空虚感が、上手く作品全体の雰囲気にもなっていると感じました。個人的には大変好きです。 -
片桐由摩先生
個人的に今回のノミネート作品で一番好きです。私が姉弟の近親相姦のバッドエンドが好きなのもあるのですが、何より脳内に浮かぶイメージが映画的で美しかったのが最大の理由です。
狭くて暗い部屋、白い身体、荒れ狂う水、連なった言葉から二人の表情まで浮かび上がりました。
古代エジプトはかなり唐突ですが、その唐突さが逆に妙なリアリティとなり、エピソードとして生きていたと思います。
ただ作品として評価するのであれば、二人の「終わり」に強くフォーカスし過ぎてそこに至るまでの関係性の描写が足りていないので、点数としては辛くつけざるを得ません。
オリジナルの表現センスを持っている方だと思うので、今度はもう少し長めの作品を書いてみて欲しいです。
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ノミネート17歳の寄り道作者 Clarice学園・学生・教師移り気で一途な、少女たちの足あと
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小林弘利先生
いたずらに物語を引き延ばしている感が強く、物語として必要のない挿話が多すぎるように思いました。
登場人物の性格づけも都合のいい人しか出てこない印象で、ドラマとして描く部分をあっさり処理して、わざわざ描きこむ必要のない部分を細かく書き込んでいるように感じました。
本来、物語の中心に置かれるべき性愛場面も脇役で、描写も淡白でリアルでもロマンチックでもエロくもなかったです。
ただ、淋しさや不安を忘れたくてセックスにしがみつく少女、というのはとても良かった。もっとこの少女に寄り添い、その心の深みに目を向けてほしかったと思います。 -
神田つばき先生
ノミネート作品中、最大のデータ量でしたが私は一気に読めました。その理由は、ただ群像的に高校生の性を描くだけでなく、経験によって変わっていく少女たちの心―たとえば最初は緊張と不安だけだったのに、少しずつ女としての自信を得ていくような描写―を新鮮に感じたからです。これだけの人数が登場するのに、性格の書き分けもしっかりしていて魅力的でした。
個人的にもっとも感情移入した登場人物は藤田先生です。ふり払ってもふり払っても静かに積もりつづける中年の心の疲労のようなもの、がよく描けていました。今後も、性の経験によって変化していく女性像を描いてください。期待しています。 -
大泉りか先生
ケータイ小説らしい「傷ついた少女」をヒロインにおいた作品ですね。爽やかな雰囲気あり、17歳という年齢ゆえのもどかしさもあり、とても楽しんで読めました。
ただ、この物語に、このボリュームが適しているかというと、少し疑問に思うところもあり、ダブルヒロインにするよりも、しっかりひとりの少女の成長を描ききったほうがよかったかもしれません。 -
深谷陽先生
ヒロインが抱える息苦しさや性欲が瑞々しく描かれていて、序盤大変面白く読みましたが義父に襲われる場面をピークに失速して、その後はひたすら後日譚を追ったようで迫力に欠けたような。
人物の一人一人は魅力的なだけに残念です。 -
片桐由摩先生
昨年ノミネート作品の『おにいちゃん、おしえて』が個人的に大好きでしたので、今年も期待に胸を膨らませながら読み始めました。メインヒロイン(?)である碧が「不審人物」というアクシデントにより嫌な奴だと思っていた浅野と急接近し、家まで行ってしまう……という流れはドラマチックで可愛く、村上先生もいい味を出していて、夢中になって読みました。
ただ本当に残念なことに、後半、登場人物を増やし過ぎてしまい物語が失速した印象が否めません。
「17歳」という大人でもない、かといって子供とも言い切れない、不安定な年齢はテーマとして非常に魅力的ですよね。
友達や、それに関わる人間関係とエピソードがどんどん増えて物語の世界が広がってゆく───それは非常に幸せで楽しいことですが、キャラが増えればその人数分だけ納得のゆく終わりを考えなければなりません。またこのコンテストのテーマは「官能」ですから、そこにも人数分のバリエーションが求められます。
Clariceさんには是非、この半分~1/3くらいのボリュームでまとめ上げることに挑戦してみて欲しいです。
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ノミネート素直になれなくて作者 Sakuraオフィス・OL・社長・秘書OLと新入社員の恋??
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小林弘利先生
普通の恋愛小説でした。しかも障害、ハードルがまったくないラブストーリーなので官能的とは言えない仕上がりだと思います。
セックスに至る男女の間にハードルが設定されていないものが多い、という全般的な印象のなかにあって、この作品は最初からキスしたらすぐに「あん」となってそのまま事に及んでしまう。出会ったその日にいきなり、です。
すぐに死んだはずのかつての恋人だった、と明かされはするものベッド・インするまでのハードルの低さは上位クラス。その後の展開も好きな者同士がセックスする描写のあるオフィスラブ小説。
会社の人達もみんなふたりを応援しているいい人たちで、障害となって立ちはだかる、という設定の悪役たちが物語を無理やり波乱に持ち込んでいく感じ。
セックスが物語の中心になっていない。
あくまでも官能小説としての体裁を持たせるための彩りでしかない、その性描写にも工夫が感じられず、ロマンチックさが欠如している。
小説としても一人称と三人称の使い分けが雑なので、読みにくい箇所がいくつか散見された。
後半のいきなり不治の病だった愛する人が暴漢に殺されてしまう、というのも『君の膵臓を食べたい』かなあ、というかラノベ的。
結婚式にいきなり登場するヒロインの両親も、出すならもっと前にヒロインを支える役割を与えられていてもいいように思う。と、欠点ばかり上げたのはこの作家さんに可能性のようなものを感じるからです。
一般小説として描き足りていない。官能小説として描き足りていない。けれど、それはどちらかに軸足をしっかりと下ろせばいいものが書ける技量がある、ということのように感じたからです。 -
神田つばき先生
田坂が隣室に住んでいて、しかも滝島だった……という設定はおもしろいと思います。「あと3ヶ月名乗りでることができない理由」も筋が通っています。が、そうなるとそれより前のシーンで田坂がガンガン迫ったことが不自然になってしまうのです。前半の「迫り」を田坂の意志ではなく、偶然にそうならざるを得ないきっかけを複数作ったほうが感情移入して読めたと思います。悪辣なクライアントによる罠も短絡的な感じがするので、もう少していねいに書くとエンディングが活きたと思います。 -
大泉りか先生
ティーンズラブの王道的な作品で、テンポもよく読みやすい作品でした。
ストーリーにきちんと仕掛けがあることで、興味深く読み進めていけますが、展開にちょっと強引さも感じました。
濡れ場もあっさり。「こんなセックス、してみたい!」と思わせるような濡れ場があると、より魅力的な作品になったと思います。 -
深谷陽先生
最初のセックスが、「ヒロイン簡単にやられ過ぎ感」があって作品全体の重みを欠いてしまった気がします。
視点移動もあまり効果的ではなく、ブレに感じました。
設定も強引な部分が多く、終盤のファンタジー展開も唐突に感じます。
逆に、総評に書いた通り、道具立てやストーリーはこのままでも構成を整えて自分なりの演出や表現が盛り込まれれば数段面白くなるとも思いました。 -
片桐由摩先生
今回のノミネート作品の中では良い意味で一番日常的で、女性読者さんから共感を得そうな設定だと感じました。
ヒロインを始め、登場するキャラの立ち位置も明確で安心して読むことが出来ました。
ただ前半の丁寧な書き込みに対し後半が駆け足気味で、通して読んだ時に後ろの方がボリューム不足のように思います。 特に、個人的には浅井とのエピソードが足りていないと感じ、もったいない気がしています。
もう少し全体的にエピソードを絞り、三人の関係を掘り下げてみても良かったのかなと。
また、お話のムード的にどうしても「甘く幸せなエッチ」が多くなるので、シチュエーションをもう少し捻ると官能度も上がったと思います。
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ノミネートキズナツナグモノガタリ~誠の男と性の少女~作者 ききまろSF・ファンタジー・歴史現代に蘇った新選組と、少女の性感で力を得る少年剣客の戦い
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小林弘利先生
官能小説、というよりもラノベ、と言った感じですが、文章が小気味よく、また性愛場面にもお互いを思いやる気持ちが強く描きこまれていて好感が持てました。
剣戟のシーンを小次郎目線ではなく楓花目線で描いたら、もっと官能小説っぽさが強まったのではないかと思います。
つまり、この小説はきっと小次郎を語り手にするからラノベ感覚になったので、楓花目線なら官能小説になったんだろうと思います。 -
神田つばき先生
性エネルギーによる変身ヒーロー、というのは映画『電エース』(河崎実監督)などがありますが、少女が発電して少年がその力を用いる、というのは新規性があると思いました。初体験後、少女のパワーが変化していくというのもおもしろかったです。しかし、少女がただひたすらエネルギーを作りだすだけなので、人格を感じることができず感情移入できませんでした。サブタイトルの「性の少女」も雑な印象です。誤字も目につくので、推敲をていねいにして、せっかくの設定を活かしてください。 -
大泉りか先生
ラノベ風味の作品で、個人的には好みです。
ピュアなヒロインをいやらしくする仕掛けが面白い。文章もこなれていて読みやすいですし、キャラクターも等身大で好感が持てます。わたしはこういう作品が好みなのですが、ただ、読み手を選ぶ作品でもあります。
個人的には来年もこの路線で頑張って欲しいですが、もしかして路線を変えてみると、さらに高い評価を得ることが出来る可能性もあるかと思います。昨年、ききまろさんの作品に「この路線をぜひ、どんどん極めていって欲しい」と言っておいて、何をという感じですが、筆力がきちんとある方なので、さらなる飛躍を期待しております。 -
深谷陽先生
新選組は魅力的なキャラの集まりで、それをよく勉強した上で上手く自分なりに消化して描いていると思います。
「精神の刀」という設定や武田の伏線回収など、面白い部分も多かったです。
ただ近藤が辻斬りを始める動機が強引というか説得力に欠け、そのせいで物語全体の戦いの必然性が軽くなってしまった気がします。
また性行為のディティールやヒロインの扱いに AV から持ってきたような雑さを感じました。
ヒロインが戦いで性感を感じるのに対して、先代、先々代のヒロインが「くすぐり」と「つねり」という設定もあえて作るのであればもっと面白い選択肢があったのでは。
作者は作品内においては神なので、何をさせてもどんな設定を持ち込むのも自由ですが、人に見せる作品であるなら「作者は何をしてもイイ」の前に「面白ければ」という但し書きが求められると思います。 -
片桐由摩先生
主役の二人は真っ直ぐで感情移入しやすく、エッチなラノベとしてとても面白い設定だとは思うのですが、「官能」がお題ですからここはやはり「ヒロインがどれだけ快感を得ているのか」をもっと全面に押し出して欲しかったです。
また、それを描くためにも戦闘シーンだけでなくもう少しハプニング的な可愛いエピソードなどがあると、ヒロインの花楓の可愛らしさ、いじらしさのようなものが伝わったかなと思います。
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ノミネートイケないキミに白い林檎を作者 咲樹こいと恋愛・純愛元カレを忘れられなかった。そんな時、先輩に強引に縛られ甘く愛されていくが……
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小林弘利先生
青春小説として完成していました。過去にトラウマを持つ少女がそれを乗り越えていく姿を描く物語はよかったと思います。
しかし官能小説にしようとして無理に多用される性描写が邪魔な印象でした。
どの男たちも行為の最中に言葉責めにするので、誰とセックスしても結局同じ場面の繰り返し、という印象になっています。せめてソラ先輩はそうではないセックスをしてほしかったと思います。
セックスってもっとロマンチックだったりやさしいものだったりするのではないでしょうか。
なんか成人漫画で使い古された「もう濡れてるのか。いやらしい女だな」というような男ばかりでうんざりします。
また記憶喪失とか過去のフラッシュバックとか接触恐怖とか、そういう事に苦しんでいるのならセラピーを受けたらいいと思ってしまいます。
その担当セラピストによって過去のベールが一枚一枚剥がされていく、というようなサスペンスに仕立てたほうが、ソラ先輩が「君が大事だから話さない」と真相を焦らし続けるよりも物語に面白みが出たように思います。
風子がバイブも知らないような女性なのに「肉便器」みたいな言葉を使うのにも違和感がありました。
ソラ先輩やその友人たちは面白いキャラだと思いますが何よりも風子と颯太にリアリティーを感じられないまま物語が進むのが残念でした。颯太のどこがそんなにいいのかわからなかったので。 -
神田つばき先生
官能描写はたっぷり書けていますし、ヒロインの背徳的なアクシデントからはじまる冒頭が新鮮で、期待をそそられました。ところが、主人公が悪い女でもなければ、一途な可愛い女とも言いきれず、存在感のあやふやな子になってしまったのが残念です。謎が解けていくストリーの骨組みはしっかり組んでいるので、風子、塑羅緒、颯太のキャラクターをそれぞれもっと濃くして、インパクトある肉付けができればよかったと思います。 -
大泉りか先生
ふたりの男性の間で揺れる気持ちがよく書けていて、もどかしくハラハラする、恋愛小説の醍醐味がしっかり味わえました。
個人的にはヒロインのキャラクターが少し優柔不断に思えて、応援したい! という気持ちになりにくかったのと、彼氏である緒方颯太が、ひたすらクズっぽくて、あまり好きになれませんでした。
ヒロインが、ふたりの男性の間で揺れる場合、両方が魅力的であることがマストだと思うので、少し残念でした。緒方のバックグラウンドを語る印象深いエピソードがもう少し描かれていると、よかったかもしれません。
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深谷陽先生
ヒロインが複雑な設定を抱えているのに、話がそこに行きつくまでが長く、全体の構成のバランスに難があると感じました。
颯太はイケメンであるという描写はあるけどキャラとしての魅力に乏しく、もっと早くソラ先輩の方に話を展開させて、かつてのヒロインとのドラマや葛藤の部分をもっと掘り下げてほしかったです。 -
片桐由摩先生
ヒロインである風子が記憶喪失という、少しミステリアスな導入はとても良かったと思います。颯太とソラ先輩、三人の関係性も人気が出そうな設定で、最後は一体どうなるのか、あれこれ想像しながら読み進めました。
小物の使い方もよく、話の筋としてまとまってはいるのですが、惜しいことにキャラ設定が少し粗い印象を受けました。特に風子は記憶喪失という点を差し引いても言動に小さな矛盾を幾つか感じ、途中で何度か物語への没入を阻まれてしまいました。
キャラ作りは物語において非常に重要な部分です。最初からガチガチに固めなくても良いのですが、芯ともいえるものだけは頭の隅に常においておき、「以前に言ったことと食い違ってないか」「このキャラ設定でこの台詞はありかなしか」ということを自問しながら書くことをおすすめします。
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