第1回 官能小説コンテスト 審査員総評

選考会のようす

■ 総評 審査委員長小林弘利先生

官能というテーマなのに(だからこそ、なのかな)たくさんのご応募、ありがとうございました。
ぼく自身は官能の世界に造詣が深いわけではまったくなく、だから相当なアウェー気分で審査委員長を努めさせていただきました。(と言っても、この世界にお詳しいほかの審査委員の皆様のご意見に耳を傾け、それをまとめてみる、ということぐらいしか出来ていませんが)
そういうある意味、門外漢の審査委員長というのも、だからこそ、どの作品にも新鮮な驚きを持って接することが出来、既存の作品や作家との比較もせず、純粋にひとつひとつの作品と純粋に向き合えたのではないかと思います。

審査に際し、常に考えていたのは「官能」とは何か。ということでした。それは単に「性愛描写」がふんだんに盛り込まれている、ということではないだろう、と門外漢としては思うわけです。男女の営みというのはたとえば殺人と同じでどの物語においても重要な要素ですが、それでも「性愛」という部分にのみ焦点を当てるジャンルであるからこそ、その「性愛描写」の周りにある男女の息遣い、体温、そしてその状況に置かれた男女それぞれの心模様、皮膚感覚、感情の移ろいなどが大事になってくるはずだと、そういう想いで皆さんの作品を読み進めていました。
そして総論として、《性愛描写の周りにある気配》といったものに作者の筆が及んでいるものは案外少ないのでした。セックスというのは人間にとって、その人の人生観や運命すらも変えてしまうことがある、なのにそこから顔を背けていては生きられない、そんな危ういタイトロープです。
そのロープを渡りきった先にあるものが「幸福」なのか「悲劇」なのか、それもほんの紙一重です。ロープから転がり落ちれば、そこには文字通りの「運命の転落」「人生の喪失」が待ち受けていたりもするでしょう。
穏やかな優しさに包まれ、我が子の誕生を祝うような結果に至るセックスもあれば、それまで順調で幸せだった人生が、いきなり汚濁に満ちた泥沼に引き込まれてしまい、愛も人生も奪われ(喜んでそれを自ら捨て去り)、ついには精神崩壊に至るような、そういうセックスもあるはずです。
今回の最終選考に応募作品を見渡して見ると、このタイトロープのぎりぎりのきわどさに踏み込んだものは見当たらなかった、というのが素直な印象です。
セックスに溺れる人物は登場します。無理矢理に犯される人物も登場します。あるいはめくるめく性愛の快楽によって、すべてを失ってもいいと思う人物も登場します。
けれど、それぞれもっと踏み込み、さらにもう一歩、性愛の闇と光の向こうに足を踏み入れてみようとした作品はありませんでした。
その「一歩先」にこそ、人間の魂の本質、性愛という名のタイトロープの行き着く先があるはずなのに、です。
なので、今回、賞を受けた作品も含め、もうあと一歩、せめて半歩、闇に踏み込む意識を作者の方々には持っていただけたら、と思います。今後の創作の時に、あと一歩この先へ、と思っていただければ、きっとさらにこのジャンルは豊かな広がりを見せるのではないかと思います。

それでは短くですが各論に行きます。

性愛の周辺にある想いや感覚、と言ったものを描いたものとして、森の中に入って行くと、そこに美しい魔女がいた、というおとぎ話の基本的なスタイルをそのまま現代の高校生に当てはめたような『完熟の森』や、田舎の風景と夏祭り、一瞬の花火のきらめきの中に愛することのせつなさと喜びを見つめた『夏の終わりに』は印象的な作品でした。

『えっちなおもちゃ』と『嫌いな男』はその主人公となる人物のキャラクターが魅力的でしたが、どちらももう少しコミカルな味付けがあってもよかったのではないか、とも思います。
コミカルな味付けが欲しい、ということでは『ラブ・カルチャースクール』も同じです。設定の面白さ、イケメン講師たちのテクニックに新しい感覚が芽生えて行くヒロインをコメディタッチで描けていたら、そのままハリウッドのラブコメに出来そうです。
ハリウッド映画、といえは『灼熱の砂丘』も、そのスケール感は大作映画の風格でした。ただ物語の後半の政治劇になってくると、それぞれの人物の思惑が単純すぎて人間の深みには踏み込めていない印象でした。ただ作者の筆力に今後の作品への興味と期待を抱かせてくれました。次回は物語の設定ではなく、そこに息づく人間たち一人一人を、《立体的な人格を持った人間》として描くことに重点が置かれたらいいと思います。
立体的な人物像、ということでは『濡れて堕ちて・・・』と『感じさせて』にその筆力が欲しいと思いました。どちらも女性が一つの愛にのめり込んで行く様子をサスペンスフルに描いているので、愛に溺れる、その感覚を日常の風景の中でどこまで突き詰めていけるか、どこから「日常」が壊れていくのか、そこをみつめることが作品世界をより濃密にして行くポイントだと思います。
表面的な出来事にとどまらず、心の奥にある揺れ、昂まり、そして一線を越えて行くことへの畏れ、などが描き込めるはずの題材だと思われます。

一線を越えて行くことへの畏れ、となると
『妄想実現SMクラブ Five Hours』、『混沌の館』、『サディスティック・マリッジ』の三作品もそこをこそ見つめてもらいたかった作品です。
日常から頽廃へ、性愛の奈落へ堕ちて行く、狂って行く、その精神崩壊ぎりぎりの悦楽が読みたかったな、と思わせてました。

性愛の行為をどれだけ詳しく描写するか、ではなく、その行為の中でその人物がどこまで日常の仮面を脱ぎ去って行くのか。マンガ的なリアクションを超えた、人間の業のようなものを見つめること、そこに官能の奥深さがあるのではないか。
描くべきは行為そのものではなく、行為の前後、行為に至る前の渇き、飢餓感、迷い、不安、行為の後の背徳感、充足感、あるいは絶望感と光。そういった体ではなく心のゆらめき、めくるめくような行為のさなかに感じる魂の深淵。
その描写にこそ力を入れ、そして読者をイカせて欲しい。
門外漢はそのように感じました。

次回もまた、みなさまのふるってのご応募とノックアウトされるような作品を楽しみにしております。
今回はありがとうござました。

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■ 総評 久保直樹先生

官能小説というジャンルであったので、アダルトビデオをにもたずさわっておる身として、どれほどの新しいエロスと出会えるのか楽しみにしておりました。その点に関しては特に目新しいものは無かったというのが正直なところでした。
私のいう目新しいというのはプレー内容のことでありまして、視角にうったえるAVですと、逆さまに吊るして電流ながしつつ、電マ50本攻めとかするわけで、べつにそれがいいというわけではありません。映像とは違うエロスを作り手も受けても求めているのだとわかりました。
「えっちなおもちゃ」「ラブカルチャースクール」はその点、エロそのものの新しさを感じて楽しく読み進められました。この二本は即AVにできるネタだと思います(AVにされることがいいことかはわかりませんが)
多く見られたシチュエーションとして人妻の冒険とでももうしましょうか、平凡な主婦が旦那にも相手にされず寂しい日々を過ごす過程で出会う、よもやのめくるめく体験といったものが多いように感じました。そういう作品の中にあって、「感じさせて」はマディソン郡の橋を彷彿させるような切ないドラマで感動しました。AVではなく映画にするならこれが一番現実的であります。
「感じさせて」のサスペンス的な展開は非常にうまいなと思いました。例えば、裏ビデオのスカウトのシンヤという登場人物は冒頭から怪しく、主人公のウサギを食い物にする鬼畜としか思えない登場の仕方をするわけですが、まさかの純愛ものだったり、オープンカフェでの手紙のやり取りは読んでいてドキドキしました。
「濡れて落ちて…」もこのジャンルですがこちらはとにかく怖いですね。この作品こそ何か独創的な責めを見せてくれたらなあと思いました。
この「人妻の冒険」系の対極にあるのが「灼熱の砂丘」でしょう。
「灼熱の砂丘」のアラビアンナイト的な異国のおとぎ話には脱帽いたしました。なによりも900Pを書き抜く著者の気力・集中力は称賛にあたいするものであります。
妄想実現SMクラブ「Five Hours」は文体の独特さに惹かれました。
「嫌いな男」は好きなものは力づくでも奪いそして愛を貫き通すという原子的な主人公に惹かれました。
「サディスティックマリッジ」「夏の終わりに」「混沌の館」も素晴らしい作品でありましたが、この辺は好みの問題になってしまいました。

とにかく書けるということはそれは才能であります。大事なことは作品を発信し続けることだと思います。発信していれば必ず誰かが見ていてくれます。そこから思いもよらない素晴らしいことが起こるのです。
ほんとうにみなさん自信を持って創作しつづけてください。

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■ 総評 真咲南朋先生

感じさせて

「さあオナニーするぞ!」と意気込んで読もうとしていたこと自体が恥ずかしくなるくらいの良い作品。これこそが女性の書いた官能小説って感じがしました。私の知り合いが「泣くことはオナニーだ」という女性がいましたがまさにその通り、切なくて泣けて焦らされてキュンキュンして抜ける作品。こんな真っ直ぐな愛情をぶつけ合ってみたいと思いました。

濡れて堕ちて……

サスペンス的な要素もあり、作品の雰囲気は一番好きでした。主人公の結婚生活について実に事細かに描かれていて、そこでまず引き込まれました。後半あたりの急展開はもうちょっと勿体ぶっても良かったかな。
ラストの3Pはどちらの男性も適度のサディスティック具合で興奮しました。もっともっと堕として欲しい!

ラブカルチャースクール

文体も読みやすく一気に読めてしまうライトさが良いと思いました。オナニーしようと思って右手に携帯、左手にローターを持って読んでいましたが、実に良いタイミングでエロいシーンに流れこむのでオカズにしやすかったです。オナニーにもってこいです。女性向けAVや携帯ゲームなどになったら相当人気が出るんじゃないかな。講師陣を好みの俳優さんに当てはめるとさらに幸せな気分になれます。(ちなみに韓流好きの私の友人も絶賛しておりました)

えっちなおもちゃ

いいですね~ポジティブな主人公!こういうキャラクターは官能小説では珍しい気がします。自慰行為やセックスには寛容だけど、恋愛上手ではない・・・これって少し前のあたしのこと?って思っちゃいました。AV女優さんを面接しているとこういう人って結構多いんですよね。なんだか親近感が沸く作品でした。
官能部分の文体もすっきり読みやすかったし、浮気の代償にライバルと彼氏をセックスをさせるところとか私がやりたいことをさらっとやってくれちゃってます。ちなみに私なら3Pにしないで最後まで彼氏と他の女のセックスを見届けたいけどなあ、それをオカズにオナニーしまくりたいよなあ。

嫌いな男

厳つくて野蛮でゴリラっぽいのがメイン男優(強羅)なのか・・・と最初は不安に思っていました。(私自身が中性的な女っぽい男が好みのため)しかし、読むにつれて強羅くんが好きになってしまう不思議な作品でしたね。わりと感情移入しやすくてところどころヤキモキさせてくれるところが◎でした。

混沌の館

冴えない男が女達を吟味している!!実に男性的目線でわかり易かったです。
まるで週刊誌やエロ本とかの体験記事を読んでいる気分でした。
それぞれの女たちにリアリティがあったと思いますし、男同士で女のことを話す時ってきっとこんなかんじなんだろうなあ、と感じました。

夏の終わりに

純愛ですねえ。もどかしさがすっごい!
出てくる景色がとても懐かしく感じて勝手に祖母の田舎のイメージで読んでいました。
これは自分を主人公に置き換えて楽しむというよりも2人の恋愛をしっかりと見守りたくなるような不思議な作品。良い意味でエロい目で見れなかったです。

サディスティック・マリッジ

官能小説というよりも少女漫画的要素が詰まっていました。琉は興奮できる良いキャラですが主人公の愛里咲にもうちょっと工夫が欲しかったかな。タイトルのインパクトがあるし、独占欲とか嫉妬とかそういうものは大好物なのでもっとこちらの度肝を抜くようなシチュエーションをいれてくれたら更に良いかも。

完熟の森

とにかく文章が美しい。情景がすぐに浮かぶので自然とページをめくってしまいます。言葉が誌的でリズムが良いんですよね、きっと。
これまた映像化したら人気出るのでは・・・と思ったのですが、それよりも作者さんの天才的な言葉選びの中で自分の景色を想像(創造)し、楽しませていただく方が逆に幸せなのかもしれませんね。
清々しい作品をありがとうございました。

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■ 総評 神田つばき先生

感じさせて

裏ビデオのスカウトという「ウシジマくん」や「スワン」なら真っ先にこすっからい事をして殺されそうなキャラクターと、夫に不満があっても世間知らずでフワフワーっと生きている主婦、という正反対の男女が結ばれる純愛を描いて成功している。いかにもなコワモテ系やエログロ系の事件など描かず、最初から終わりまで二人の世界から足を踏み出さなかったのがよかった。オープンカフェから映画館までのくだりは、不倫をしたことのある人なら一度は体験するであろう切なさにあふれて、60~70年代のフランス映画を見ているようだ。人が人を好きになる、好きだから官能を燃やす―「恋愛」と「官能」のバランスもよかった。

ラブカルチャースクール

男性が風俗で安心して遊べるように、女も素敵なご主人様にお相手してもらえる安全な場所があればいいのにね……と、M女性どうしで話したことがある。「でも、風俗店のお客になるのって、何か冷めちゃうね」という話になったが、それがカルチャースクールだったら抵抗なく行けるだろうし、罪悪感なくいろんな男性のテクニックを体験できる。この着想が素晴らしい。レディコミやAVのどぎつさはなく、女性器と快感の仕組みについて正確かつ精細に描写している点も評価したい。凌辱的なストーリーが必要な女性もいる一方で、こういった静かに読み進められる官能小説を求めている女性も少なくないと思う。

濡れて堕ちて……

描写の過激さに目を惹かれがちだが、内容もしっかりしていて、「マゾヒズムとは何か」という問いに対する作家の答も感じ取ることのできる素晴らしい作品であった。恋愛感情の延長上に行為があってほしい、愛しているから苦痛にも耐える、と祈りながら……一方的にもたらされる刺激に官能してしまう自分も否定できず……この矛盾と拮抗を手を抜かずに描いている点を高く評価したい。過激にエスカレートする一方の展開をどう〆るのかと思って読み進めたが、12章「審判」はうまいなあ、と感心した。不幸フェチでメリーバッドエンド好きの私には読後感もよかった。

えっちなおもちゃ

楽しいセクシーポップな展開の芯には、作家が「女性の性欲」というテーマに真面目に取り組んでいることが伺われ、非常に好感が持てる。社会の表層だけを見ると性に対してオープンに自由になったかのように錯覚するが、実際に若い人たちが性の愉しさを謳歌しているかというと、必ずしもそうではない。少子化と未婚者増加の原因は、雇用と収入の不安定だけではないのだ。性が安っぽく扱われ、若い人々がそっぼを向いたのだと思う。このような優良な小説は、ぜひとも週刊誌やスポーツ紙に連載で掲載してほしい。男性諸氏もこの小説を読んだらグッと女性にモテるようになるはずだ。

嫌いな男

章から章へ視点を移動させ読者をグイグイ引き込む、ドラマAVの脚本として使える小説である。特に第八章、優れたAVドラマにはこういう冷ましの章が必ず入っている。ヤリまくりの荒唐無稽な話になることを回避でき、リアリティが出てくる。男の可愛さとまでは言わないが、弱いところや情けないところを滲ませているのがいい。容貌や体つきの描写だけでは性描写はカラ回りするが、悩みや強がりや意外な純情まで描かれた本作にはエロスを感じた。第十四章、翔子と田中雪を交換するくだりにもう少し説得力があると、さらに強いストーリーになったと思う。何度も読みたいと思ったのは、この作品であった。

混沌の館

射精し終わった直後のペニスから、強引に残精を吸い出されることに快感があることなど、男性の口からはなかなか聞かれない具体的な感覚について書かれているのが新鮮で、大へん面白く読ませていただいた。身勝手なのは男の人格ではなく生理なのだな、と苦笑するところもあった。私たち女は、「男性は女の快感について知ろうとしない」と言いがちだけれども、女性の側も男性の快感を詳しく知っているかと言うと、まだまだであろう。作者はぜひ、男性の快感の具体的な描写を持ち味として、どんどん書いてほしい。女性の描写もステロタイプではなく生々しいエロスが感じられてよかった。

夏の終わりに

初めて結ばれるまでの時間、未遂に終わった過去のセックス、そしてその罪悪感に男のほうが深く傷ついておびえている―というストーリーは誰も書いていないのではないだろうか。それでいて性描写もしっかりして、激しいだけが官能小説ではないと気づかせてくれた貴重な作品だ。この描き方は誰にも真似ができないと思うので、今後もぜひ続けていただきたい。女性が帰省して幼馴染みと関係を結ぶ展開が好きで、たまにAVドラマでも書くのだけれど、この作品の丁寧で清々しい筆致にうなってしまった。近いうちに時間を作って田舎を散策し、私もまた書いてみたくなった。

サディスティック・マリッジ

第二章までは凌辱系として予測できる範囲のお話だったが、第三章のいきなりの4P未遂は新鮮で面白かった。見せつけ・見せられ・寝盗られての綾が面白いし、「自身のプライドを押し付け」等、官能シーンの描写に優れた表現が多かった。「自分に対しては人でなしで、対外的には庇護者」というM女性が好むS男性像、SM関係でも愛の告白がほしい女の切実さ、怖いしガマンしているだけなのに気づいたら濡れていて……という描写も自然。逆に地の文には体言止めや急いだ書き方が多いのは、せっかくの書く力がちょっともったいない気がした。ラストのマリッジブルーのくだりは素晴らしい。

完熟の森

小説らしい小説、紙の本でも読みたい作品だった。文字だけで音や匂いや温度を伝える力があり、雫がややアルコールに依存ぎみなのも話をリアルにしているし、元カノが主人公に縛られた快楽を忘れられずにいるところ、高校生同士の恋の鞘当てなども面白かったし、官能シーンにバラエティがあって読みごたえを感じた。濡れ場がうまい作家さんなので欲張りな注文をさせていただくと、雫の不倫相手を見てしまった衝撃をその後の性行為の中で活かしてほしかった。少年なりの嫉妬や寝盗られ感覚、わざと大人っぽく振る舞おうとして背伸びした性行為をしてしまう……などを読んでみたかったので。

<総評>

 今回、栄えある第一回の選考をお手伝いさせていただくにあたり、もっとも考えさせられたことは「ネット官能小説とは何か」ということでした。 乱暴な言い方をすれば、官能>小説なのか小説>官能なのかということです。

 私の現在の仕事はアダルトビデオのドラマ脚本の執筆です。アダルトビデオはもともと淋しい男性が見るものであり、描写の方向性は決まっています。官能>ドラマが正解です。読者をすんなり勃起&射精に誘うためのストーリーを目指して書きます。これは仕事としてはシンプルでやり易いということになります。
 一方、ネット官能小説の読者は多様で、書店の官能小説コーナーの読者もいれば、レディコミやBL読者の女性もいるでしょう。ネットの素人投稿手記の愛読者もいるかも知れません。私は官能>小説の作品ばかりだろうと予測していたのですが、実際にはさまざまな羅針盤を持った作家さんがいることに嬉しい驚きを感じました。AVを超える官能描写作品もあり、R18描写を含んだ恋愛小説もあり、90%純文学と言っていい作品もありました。そのどれが正解ということではなく、ネット官能小説は今まさに作家さんと読者さんが日々育て上げている揺籃の日々にあり、完成途上の世界なのだと知りました。ここに今回の選考委員の悩みがあり、予定時間を大幅に超過しての選考となりました。
 私から作者の皆さんにお願いがあります。今回の選考結果だけを見て、「賞が獲れる作品はこういう傾向なのか」と分析したり、ご自身の作風を安易に変更したりしないでください。作品を創り続けるということは、常にその誘惑と格闘することでもあります。変えるのではなく、深くしていただくことが、ご自身の力となって蓄積します。「深く」とは、ご自分の内なる世界を深く掘り下げるという意味でもあり、読み手の心の深部に甘く疼く傷を残すということでもあります。小説でも映像でも、官能は見る者の意識の最奥に楔を打ち込む力のあるものです。どうかそのことを忘れずに、今後の制作に励んでいただきたいと思います。


 もともとモバイル小説の愛読者なのですが、随時更新型のネット小説は昭和の新聞連載小説や連続テレビドラマにとって代わるものだと感動しております。昭和の人々は明日の新聞、明日のテレビの続きが待ち遠しく、主人公にすっかり感情移入している人も少なくありませんでした。今より新聞購読率が高く、民放の連続ドラマも完結までの回数が長かった時代です。その熱気に似たものを現代のメディアに求めるとすれば、ネット小説しかないと思います。大変楽しみなメディアであり、自由度の高い分野で、作家の皆さんがボリュームある作品を物していることに驚きと敬意を覚えました。長編はもちろん、中編作品も、まだまだたっぷり書ける体力がありながら、あえてバランス的に美しく完結をつけたのであろうことが伺われます。これだけの文章の更新、読者さんは非常に楽しみにしていることでしょう。
 しかし、こうして一気読みして選考するとなると、どうしても一冊の本として読んでしまいます。そうなったときに、あえてさらに高度な注文をつけるならば、全編を通じて同じテンションのまま話が進む作品が多かったように思います。一回、一回の更新の中で読者をつかんで次に引っ張りながら、全体の起伏を見る作業はなかなか困難なものです。より深く読者の心をつかむためには、全体の中でのクライマックスも必要ですし、各パートごとにも+の次には-が来るように、成功の次には失敗を、愛の成就の前には裏切りを、というような強いアクセントで飽きさせない工夫があると良いのではないでしょうか。いずれの作品もストーリーはしっかり起伏があるのに、その強弱の付け方にもっと思いきりがあれば……と感じました。また、官能小説としては、濡れ場にもう少し変化がほしいとも思います。主人公の内面の変化・成長が性行為の中で表現されていると、魅力ある官能小説となるでしょう。


 私自身、『東京女子エロ画祭』というエロスをテーマにしたビジュアル作品展を運営しておりますが、一般的に「エロス」という言葉から連想するものとは全く異質の作品が次々と発表され、また歓迎されています。価値観は常に変わりゆくものです。作家の皆さんが過去の価値観におもねることなく、ご自分の求めるところをそのまま作品にこめていける環境を整えることが運営、そして審査員というものの本懐と思っております。これからも常に真摯な気持ちで、読者さんとともに日々拝読させていただきます。審査員にご指名をいただいたおかげで、新しい世界に胸躍らせる時間が日課になりました。今後の作家の皆さんのご活躍を心よりお祈り申し上げます。

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■ 総評 深谷陽先生

感じさせて

個人的に一番好きな作品でした。
もっと汚い部分を見せつけられることを覚悟して読み始めたら実は純愛で
満たされない人妻が救いを求めるに終止するかと見せて実は彼女が一人の男を救う物語。
一話一話の区切りも、
繰り返しの多い序盤から急展開のクライマックスへ流れるようで
徐々にのめり込み読後爽やかでした。
ただ他の方がおっしゃるように官能描写的にはやや大人しいと思いました。
あと、うさちゃんが設定よりかなり年上に読めてしまいました。
物語的には、むしろそちらの印象に沿った設定、
若過ぎるシンヤにもっと引け目を感じるくらい年上の設定でよかったのでは、とも。

ラブカルチャースクール

80年代の少年漫画界を風靡した「ラブコメ」の、
「ぱっとしない主人公が何故か魅力的な美女達に入れ替わり立ち代わり…」
といった筋立てを男女逆転させて官能小説化したような物語ですね。
「満たされない主婦」が突然様々なタイプのイケメン講師ととっかえひっかえ…
上手くやれば女性にとって爽快な物語でしょうが
主人公への共感、感情移入の工夫がもう一つあれば…と感じました。

濡れて墜ちて…

官能作品としては最も誠実に貪欲に描き切っているのでは、と感じました。
他の数作と重なる「満たされない人妻」の描写もリアルで
彼女の墜ちて行く様も濃厚で読んでいて息苦しくなりました。
ラストの衝撃もあり、ストーリー的にはそこで収まってからの
二人掛かりの陵辱描写がまた執拗で力が入っていましたね。

えっちなおもちゃ

平仮名表記の可愛げなタイトルのイメージ通りの展開で面白かったです。
主人公の持つリア充に対しての怨念的コンプレックス、
なのにやることはなまじのリア充以上に貪欲で…
この主人公の造形だけでも作者の力量が伝わります。
他のタイプの女性を主人公にした作品も読んでみたいです。

嫌いな男

場面場面の描写だけでなく章単位の構成も練られていて
達者だなぁと感じました。
内面の葛藤がどれだけあるにしろ、女性をレイプ出来てしまう男
少女を買って楽しめてしまう援交オヤジ
相手の人格を尊重出来ないロリコン、
タイトルに偽り無く、ろくでもない男ばかり出て来ますね(笑)
ただ物語中、レイプ男や援交オヤジを
いささかキレイに扱い過ぎている気がしました。
フィクションに対して無粋かもしれませんが
そんな無粋を忘れさせて
最低な男(女)にでも共感させられてしまうほどの次回作を期待します。

混沌の館

これも、80年代少年漫画ラブコメの
「ぱっとしない主人公が何故か美女を取っ替え引っ替え」パターンを思い出しました。
あの世界に憧れたかつての少年がおっさんになって
ある程度の収入と現代的ツールを手に入れ夢を実現して行くような。
でも二次元的な夢の美女達と違い、
本作の女性達は生々しさがありプレイ内容もリアルで
実録風俗物感覚で楽しめました。
ラスト、それでも「優しき運命の美女」と巡り会ってしまうあたり
男は結局ファンタジーから抜け出せないのかな…。

夏の終わりに

美しい作品ですね。
性描写もおざなりではなく、でも繊細でもどかしく優しく、
夏の陽射しを受けながら読み進める感覚でいました。
はやくはやく…でも辿り着くのが怖い…「焦らし派」作品の成功例でしょうか。

サディスティック・マリッジ

個人的に、官能的シーンの「そそられ度」では一番だったかもしれません。
ただ携帯小説としての区切り方で読む分には引っかかりが少ないのかもしれませんが
まとめて読むと、時間経過や場面転換の描写が多少心もとない気はしました。
散々好き放題やり倒しておきながら、
最終的にキレイに収まるというかいっそ爽やかなハッピーエンド、
最後の里中との対決はどうせならもっとこじれてもよかったのでは。

完熟の森

少年が森で出会う謎めいた大人の女性、
美しい物語で、非常に惹かれるテーマではあるのですが
その出会いに至るまでの主人公の少年らしからぬ性生活の充実っぷりに
今一つ感情移入出来ませんでした…個人的な問題かもしれません(笑)
結末、
主人公が彼女の元に戻り寄り添い、彼女が目覚める前に章が閉じられる所が好きです。
でも彼女の隠された真意を知る経緯は、もう少し何か工夫出来たのではないかと思ってしまいます。

<総評>

「官能作品」を仕事として生み出したことのない自分にオファーを頂き
申し訳ない思いを抱きながら貴重な体験をさせていただきました。
エントリー作品を読みながら思ったのは
携帯小説と言うスタイルの特殊性、
これをリアルタイムで、続きを待ちながら読んできた読者と
まとめ読みする自分では感じ方も大分違うのだろうな、ということ。
またそれと矛盾するけれども、
優れた作品はスタイルの壁を越えて何かを伝えてくれるということでした。
次回以降の作品には
まだまだ、より多様なジャンル、キャラクターの出現と同時に
何気ない場面を大切に丁寧に描く姿勢を期待します。

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■ 総評 大泉りか先生

感じさせて

「自分の話である」「自伝である」とは一切書いてはいませんが、作者本人のペンネームとヒロインの名前が近いところ、そして文章の書き口がリアル(現実の人物が語りかけているような、呟きの形)なところからして、いわばケータイ小説の王道ともいえるいわゆる『リアル系ケータイ小説』作品であると言えます。官能小説というには、性表現が物足りなかったりするところもありますが、ストーリー全体の甘酸っぱい雰囲気からすると、むしろこれくらいソフトなほうが読者も読みやすかったと思います。大賞、おめでとうございます。

ラブカルチャースクール

普通の主婦が新しい性の世界を覗く――ということを考えた時にカルチャースクールを題材に選んだのは、面白いと思います。複数ヒーローがいて、自分の好みを選べるところもよく、”実用”として使い勝手がいいです。性描写は決して過激ではありませんが、一人称目線であることで、より主婦の『リアルな快感』が伝わってきたように思えます。

濡れて堕ちて……

今回のノミネート作品の中では少ない陵辱系の小説ですが、ラストの二段オチが面白かったです。きちんと「読む人を驚かせよう、面白がらせよう」という気概を感じました。凌辱系というのは、人としてありえない酷いことをしてナンボ、酷ければ酷いほどスバラシイと思うので、もっと酷い凌辱やプレイがあってもよかったかもしれません。が、そうすると、ファン層は確かに狭くなり、「たくさんの方に読んでもらいたい」という作家さんの望みとは裏腹の結果になります。が、その分、ディープでコアな方々の指示を得ることにもなります。もしもこの作品の著者の方が凌辱系を突き進もうと思うなら、次作はぜひ、ご自身の妄想する中の一番酷い妄想を文章にしてみて欲しいと思っています。

えっちなおもちゃ

これも個人的に大好きな作品でした。作品にきちんとテーマがあり、「セックスとは何か……」「愛とは何なのか……」をきちんと求道している。また、キラッと光るセンテンスもところどころにあり、本当の意味で”創作”の出来る作家さんだと思います。

嫌いな男

文中に張られた伏線がきちんと回収され、また、ご都合主義になりそうな設定も、筆力があるので気にならない。テンポもよく、すいすいと引き込まれるように最後まで読んでしまいました。貞淑で健気なヒロインと、やんちゃな女子高生の娘、また、強羅という、ヒロインの『嫌いな男』の立ち振る舞いが、説明書きではなく、セリフや行動などできちんと描かれている。構成力・筆力・エピソードを作る上手さなど、実力のある作家さんだと思います。

混沌の館

こちらも『リアル系ケータイ小説』に入るのでしょうか。どちらかといえば、出会い系の体験ルポタージュのようで、『出会い系にはこんな女性が来るのか……』ととても勉強になりました。ただ、官能として読む場合は、やはり醜悪なセックスは凌辱以外は”実用”にしにくいので、あくまでもアクセント程度でよかったかもしれません。が、それはあくまでも”実用”として考えた場合で、この作品の目的が『出会い系に集う様々な女性』を描くことであれば、それは成功していると思います。

夏の終わりに

純愛作品ですが、セックス描写もとても上手に書けていて、その部分に於いては”官能”といってもいい作品だと思います。主人公たちのじれったい心情描写がこの作品の肝だと思うのですが、わたしは少し長すぎるようにも思えました。ただ、今回、全体を読んで、ケータイ小説を読む読者の方々はこういった”ヤキモキ感”を楽しむ方が多いような印象も受けたので、その点に於いては、あえてこういう作風にされているのかな、とも思いました。また、花火の音と代わる代わるにセリフが入るシーンが美しく、とても素敵だなと思いました。

サディスティック・マリッジ

こちらも非常によくできた作品だと思いました。カテゴリーは『凌辱系』となっていますが、どちらかといえば、女性向け官能ノベルでいう『俺様ドS系』。ヒーローもカッコイイですし、ヒロインも親しみやすい。話もテンポよく、エッチのシチュエーションやプレイも女性の萌えるポイントをついていると思いました。ヒロインの元彼が出てきすぎでちょっとビッチ感が出てしまったのがちょっと残念だったかもしれません。

完熟の森

モラトリアム期の少年の感情が丁寧に書き込まれており、主人公の成長や心の模様が伝わってきました。”森”を舞台にしたところも、この少年の語り口の雰囲気とぴったりあっていてよかったと思います。これも官能というよりは、愛の物語ですね。

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■ 総評 渋谷さえら先生

感じさせて

主人公がシンヤに救われていく話かと思いきや…という感じで読み進めていたが、予想外な話の展開だった。物語の流れが綺麗ではあったが、性描写自体は少なかったので官能小説と言われるとどうだろう?と感じる部分もあった。

ラブカルチャースクール

設定が面白い。話もサクサク進んでとても読みやすかった。
擬音や名詞が少し古い感じがするので流行に目を向けるともっと良くなる。

濡れて堕ちて……

サスペンスチックでハラハラドキドキしながら読んだら最後は…と、オチで全て持っていってくれた作品。最初の甘い展開とその後のギャップがすごくて映像化したら極端な絵柄になって面白そう。SMタグがついている作品の中で一番SMをしている作品。

えっちなおもちゃ

主人公の女の子がビッチなのにビッチ感がなくてむしろうぶっぽく感じさせるキャラクター造形の仕方が凄い。いいオチもついていてタイトルと主人公の性癖がうまくリンクしているところも良い。

嫌いな男

好き嫌いがはっきり分かれる作品だと思った。梨花ちゃんがかわいい。
憎たらしくあるべきポジションのキャラクターをとことんまで憎たらしく描けるのはすごい。ちなみに私は強羅が好きになれませんでした。ごめんなさい…

混沌の館

エントリー作品の中で一番ベタな「THE官能小説」。オムニバスかと思いきや所々話が繋がっていて話の構成がとても魅力的だった。窓際族の自分を棚にあげてちゃっかり女性を値踏みするあたりが男性の傲慢さをリアルに描いていて良かった。

夏の終わりに

くっつくのかくっつかないのか二人の微妙な距離感が見ていてもどかしいんだけどそこがまた胸がキュンとする良いスパイスになっている。雰囲気に任せて話を持っていっている節があり、所々物語がぼやけて感じる部分があった。

サディスティック・マリッジ

お局様のインパクトがすごかった。ここまであからさまで強烈なキャラクターを描けるのは才能だと思う。最後にもう少し琉と愛里咲がお互いの気持ちをぶつけ合うシーンが見たかった。

完熟の森

風景描写がうまい。読んでいて森の香りがしてきそうだった。
現実ではおおよそあり得ないロケーションだが、その中で繰り広げられる物語と主人公の青さが絶妙にマッチしていて夢と現の境が判らなくなる様な雰囲気が素敵。

<総評>

どの作品もボリュームがあり、自分の書きたい物を好きな様に書いているのが伝わってきてとても楽しく読ませて頂きましたが、全体的に起承転結がうまくついていない作品が多いのが気になりました。読者さんは自分のファンだけとは限らないので、「自分の事を知らない人に興味を持ってもらう」という事を念頭に置いて作品を作るともっと素晴らしいものが出来上がると思います。

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