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終わらない夢
第1章 曖昧な夢
 いつからか、芽生えたこの曖昧な感情は私を惑わす。

 今までにない、激しく身体を駆け巡るほどの感覚に戸惑い、恐れる。

 求めても、決して手には入らない。
 与えても、受け取られる事のない。

 そっと、心に閉じ込めて。

 いつか、覚める曖昧な夢。
 いつか、消え行く曖昧な夢。





「どうして?!どうしてなの!!貴史、貴史!!」

 貴史は身体中に包帯を巻かれ、所々血が滲んでいる。

 医師により、呼吸器が外される。

 ベッドの上の我が子は動かない。瞼も唇も、少しも動かない。
 
「…やめないか、麻友子。もう、もう貴史は…。」

「なんで?なんで、あなたが側にいたのに…。どうしてこんなことになったの?!」

「…すまない。目を放した隙に…。いや、言い訳はやめよう。僕が目を放してしまったから。」

 あぁ、貴史。

 なんで?
 どうして?

 死なないで。
 置いていかないで。

 私の。
 私の…。

 八年間の短い命。閉ざされた命。

 白い小さな手をとる。

「…痛かったよね。」

 もう、流す涙も枯れてしまった。
 声すら、出ない。

 小さく、囁く。

「貴史、助けてあげられなくてごめんね。」

 これは、罰なの?

 きっと、神様が私に罰を下したのにちがいない。

「…ごめんなさい。」

「…麻友子…。」

 


 その日、夫の英輝と子供の貴史は二人で電車に乗り、春休み楽しみにしていた動物園に行った。

 私は町内会の集まりがあり、二人だけで行くことになった。

 たった、三駅先の動物園。

 いつも、気軽に散歩がてら行くような所なのに。

 集会場で軽い掃除やお茶の用意をする。
 来週から行われる、春祭の準備に町内は活気に溢れている。

 メインの会場はこの、集会場のある公園。
 まだ、蕾の状態だがもうすぐ咲き始める。桜の木が公園を取り巻き、花見客や町を魅了する。

 慌ただしく、朝から皆が動きあっという間に昼前になる。

「仲村さん!麻友子さん!!」

 名前を呼ばれ、ゴミ箱を段ボールで作っていた手を止める。

「どうしたの?伊原さん。」

 伊原さんとは貴史と同級生の子供を持ち、家族ぐるみで仲良くしている。

 血相を変えて、私に駆け寄る。

「麻友子さん、携帯は?」

「えっ?携帯?鞄の中かな?」

「何度もかけたって。」
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