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影に抱かれて
第2章 月と太陽

開花を間近に控え、薔薇の水やりには慎重さが求められる時期だ。先ほどからその作業を、家令のジャン・ブレーズがもう六十近い年齢をものともせずに手伝ってくれているのだが……

「ジャン・ブレーズさん、もう大丈夫です。僕一人でできますから……」

遠慮をすることをジャンが喜ばないことは分かっていたが、先ほどからの作業で、すっかり薄くなった額からしきりに汗を流す老家令の様子を見て、リュヌは思わずそう口にしていた。

リュヌの方を向くジャンの丸い顔には、いかにも温厚そうな笑みが浮かぶ。しかし温厚なだけではなく、実はとても頭の切れる人物であることをリュヌは知っていた。

そして頑固な一面があることも。

「なんのこれしきっ。それよりリュヌ、ジャンと呼びなさいと言っているじゃろう。私はお前の後見人になったのだから……堅苦しいことは止めにせんか」

リュヌが、一向に手を止める気配のないジャンを見て心配そうにため息をついたその時、背後から誰かの声がした。

ジャンよりも若い……張りのある男性の声だ

「おや、これは……リュヌが書いたのか? 」

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