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影に抱かれて
第1章 月夜の贈りもの

フランクール伯爵家の一人息子と、使用人。
本来なら一緒に行動することなど許されない身分の違いがある二人だが、ジュールはいつもこうやってリュヌに対して兄弟のように接するのだ。

「中にランタンが隠してあるから。……ちょっと待って」

ガタッ……ガガガガ……と、重い板を引きずる音がする。リュヌも慌てて駆け寄り一緒に押していると、ひんやりと湿気た石の匂いが感じられた。ぽっかり開いた塔の入り口には、大きな木製の板が立て掛けられているだけなのだ。

そして中に入り、シュッ……というマッチの音とともに手提げランタンに火が入ると、蝋燭の細い煙で周囲の空気は心なしか暖かく変化していた。

「ほら、もう怖くないだろう? リュヌに見せたいものがあるんだ」

ランタンを持っていない方の手が差し出され、リュヌがその温かな手を握りしめると……ジュールはゆっくりと歩き出した。

一段、また一段と階段を登る度に、二つの影がゆらゆらと……まるで怪物のように石の壁に浮かび上がる。そもそも、手すりも無い石の螺旋階段は小さなリュヌにとって上るだけでもただ、恐ろしかった。

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