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影に抱かれて
第1章 月夜の贈りもの

「ジュールは怖くないの……? 」

ついに訊いてしまった。

闇夜を怖がらないジュール。空を飛ぶことを楽しそうに話すジュール。リュヌの目には、勇ましく月に向って飛んでいくジュールの姿が見えるようだった。

憧れという言葉だけでは表現しきれない……息苦しいような気持ちでリュヌはジュールを見た。

「僕には怖いものなんてない。だからリュヌも何も怖がらなくていいんだよ。僕のこと……信じて」

リュヌのその視線に応えるように、ジュールの白い指先がリュヌの耳朶を掠めながら頬を優しく包み込む。

リュヌ〈月〉を愛でるその仕草は、まるで大人の男が恋人にするような妖しさを秘めていたが、リュヌにとってそれは母の様であり、兄の様でもあり……この世の全てとも言える清らかな恩寵だった。

例え父や母がいなくても、自分にはジュールさえいてくれたらいい……そんな思いがリュヌを包む。そしてそれ以外のよく分からない胸のざわつきを誤魔化すように大きな声を上げた。

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