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幸せの時効
第3章 道徳観
「高島検事、こちら次の公判資料になります」
「ありがとう」

 いつもと変わらぬいつもの執務室。事務官から渡された資料を読みながら私は昨日のことを考えていた。
 結婚指輪がないことを問うと昨年離婚したと言っていた。それも子供が中学を卒業したからだと。そして私を愛してしまったからだと。愛されることは素直に嬉しいものだが、私の場合は15年前にそれを捨てた。湯島の妻の顔が頭にこびりついて離れない。
 それに煩わしさを感じたが、自分が選んだ過去の過ちでその人を深く傷つけたことに変わりは無い。そもそも不倫なんてやっていいものではないのだから。

「お疲れのようですね、高島検事……」

 心配そうな顔でこちらをうかがう事務官にほほえみで返す。執務中に考えて良いことではない。今は目の前の仕事を片付けようと気持ちを切り替えた。

「大丈夫です。明日の公判までには目を通します」

 事務官はやはり心配そうな顔で頷いた。私の過去の話をこの真面目そうな事務官に話したら、どんな反応を示すだろう。侮蔑の目を向けられるかも知れない。そんなつまらぬことを考えていたとき、スマートフォンが鳴った。

 電話の向こうから友の声が聞こえる。彼女は私の大学時代の友人だった。彼女は私の数少ない理解者で、最後まで湯島とのことを案じていた友だ。心が壊れた私をずっと側で見守って励ましてくれた。そんな彼女が結婚を決めた相手は私と同じ検事だった。
 結婚式に招待されて懐かしい友と再会を果たす。彼女は幸せそうな笑みを浮かべ、新郎に寄り添っていた。彼女の姿は私から見れば眩しくて、これから先自分が決して得られないであろう喜びに満ちあふれていた。

「幸せになることを恐れないで欲しい」と彼女は言った。でも私は15年前からまだ一歩も足を進めていない。それは自分が誰かを不幸にし、その上で幸福を掴むことのことへの恐れからだった。
 私は幸せになってはいけない。あの時あの人を不幸にしたのだから。
 それでも彼への恋慕は抑えきれず、何度も出逢ったことを後悔しては彼に抱かれて悦びを感じていた。

 もう終わったことだ。

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