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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

「演技……」

「そう、作っているプログラムとは違うことを言葉で喋ってた。盗聴器の難点は、声しか聞こえていないこと。そして三上さんや俺のキーボードを叩く音から、実際なにを作っているのかわからない。ちゃんとタブレットで本当のものは指示しあってたよ。多分声からする俺の指示からすれば、音声ソフトを開発していたと思うよ」

「音声ソフト?」

「そう。声だけで指示できるプログラム。だけどプログラムを実行させるためには、ネットワークかなにかで命令する機器を繋いでおかないといけない。無線に対応していない機器にどう対応するのか、そこを悩みどころとして三上さんと話していたから、多分そこらへんの開発を頑張っていると思うよ、向島」

「うっわ……。うちの弱点を強めた気でいて、踊らされているのか。ひとの案をかっ攫おうとするからそんな目に遭うようね」

「本当に滑稽だよね。ちょっと嘘ついて、三上さんと目的のプログラムが出来上がったと騒いでみたら、案の定すぐ向島がシークレットムーン買収に乗り出した。月曜日にプログラムを売ろうと声に出して言っておいたから、月曜日意気揚々と発表すると思うよ」

 朱羽は両肘をつき、組んだ手の上に置いたその顔を残忍なほどに、冷ややかなものにさせた。

「こっちも仕掛けた。こんなのは序の口。まあ見ててよ」

 朱羽の美貌が冴え渡る。

「朱羽って、本当に凄いプログラマーなんだね」

「いやいや。上には上がいるから」

「だけど朱羽の教授も欲しがるほどだし」

「たまたまさ。プログラムに対する純粋な能力は、多分三上さんの方が上だ。彼女の方がアルゴリズム(=問題を解くための手順)に適性がある。俺は理論や数学的見地から進むけど、彼女は数学は苦手らしい。それであれだけ作れるのは凄いと思う。俺は趣味から勉強した結果だけど、彼女は天性だと思う」
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