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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

「は?」

「結城さんの喜ぶ顔を想像しただろう、今。凄く妬ける」

「ちょ、だって朱羽が一番のっていうから……」

 すると朱羽が笑ってあたしの頭上に手のひらをぽんぽんと乗せた。

「ふふ、冗談だよ。半分は本気だけど」

 ……すべてを冗談にしないらしい。

「俺のも選んで?」

「え、居るんだから朱羽が食べたいの選べば……」

「結城さんのみたいに、俺のことを考えて選んでくれたものを食べたい。だから思い切り悩んで選んでね、俺のこと考えて」

 何気にハードルを上げる朱羽は、硝子ケースの上に片手を置いて腰を屈め、長い足を交差させるように立ちながら、ゆったりとあたしを見ている。

 このひとはなんでもモデルのようにサマになるから、向けられる熱い視線が凄まじい。

 そんな中で、しかも本人が見ている前では選びにくい。ましてや、事前情報がない初めてのところであるのなら。

 朱羽は以前チョコとベリー系は大丈夫ということを聞いていたから、食べ応えがありそうなものを選ぼうとしたが、ふと思い立ってキャラメルクリームと木苺が入っているミルフィーユ仕立ての、細長いケーキにした。

「結構簡単に選んだね。それを選んだ理由は?」

 女子が多い店内、やはり朱羽に注がれる女性の視線が凄い。

 だけど朱羽は、その視線を知ってか知らずか、身体ごとあたしに向いてキラースマイルを見せている。……ああ、嫉妬の嵐。

「朱羽、あの崩れたホールケーキを夜中に食べたんだから、胃がもたれているだろうなと。それにさっき、珈琲も少し残してたでしょ? だったら、サクサクと食べれて胸焼けしない方がいいかなと。甘いムースとか生クリーム系は辛いと思うから。スポンジやタルトも辛いかなって。本当は柑橘系のゼリーがあればよかったけど、ケーキしかないみたいだし」

「俺のこと考えてくれて、ありがとう。うん、それがいい」

 朱羽が笑いながら、あたしの後頭部をよしよしと撫でる。

 途端店内がざわつき、あたしは慌てて店員さんを呼んだ。
 
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