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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

「なに、それ。代償?」

「そうだ。そしてその代償の大きさをわかっていても、あなたを手に入れたかったのだとしたら?」

「やだ、なにを言うの? 悪魔を呼び出して、願いを叶えた代償に魂を奪われるとか!?」

 すると朱羽は吹き出した。

「ごめん……。その発想は新鮮だったから。だけど、うん。そんな感じかもしれない」

「どういうこと!?」

「俺が、悪魔祓いに失敗すると、永遠に……囚われ人になる。このマンションとあの車と同じ、悪魔に所有される。自由はなくなる」

 どう見ても、冗談を言っているようには見えない。

「その悪魔ってなによ!?」

 朱羽は苦しそうな顔であたしを見た。

「それ、あたしがずっとはぐらかされていることなんだよね? 朱羽、あたしになにか出来ることがあるなら言って」

「………」

「朱羽……!! あたしを信じてよ!!」

「出来るなら、予定通りそのぎりぎりまで、ただの俺とあなたで愛し合いたかった。だけど、さっきの電話で時間がなくなってっ!! すべての約束は反故にされてっ!!」

 朱羽は唾棄するように言い放った。

 これはもしもの話ではない。現実に起きている本当の話だ。

「なんで過去系なの!? 朱羽!!」

 不穏な予感にドキドキが止まらない。

 あたしがこのマンションで朱羽と共に住む未来が見えない理由も、このことを予感していたように思えるのだ。

「あなたに辛い選択をさせてしまうから。今の状況では、優しいあなたはただ流されて、俺に同情するだけだ。或いはあなたは疲れ果てて、三上さんのように逃げ出してしまう。……もっともっと、俺は、あなたの心を守る力をつけたかったのに!! あなたと過ごす時間が、足りなすぎる!!」

「言ってよ、言って!!」

「聞いてしまったら、あなたは後戻りが出来ない。あなたは茨の道で戦い続けないといけない。俺のように」

「いいわよ、戦うわ。朱羽を守るためなら、どんなに勝算がなくても、地べたに這いつくばってでも戦うわ!!」

 それは意地ではなく、本心だった。

「勝算は僅かにならある。だけどそのために……」

 朱羽が静かに目を閉じ、そして開いた。

 ゆっくりとあたしを見据えてくる。

「……会社をやめれるか?」

「え?」

「シークレットムーンを退職できるか?」

 朱羽の目は温度を無くしていた。
 
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