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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

「現当主が倒れたからといって、なんで朱羽が後を継ぐの? 宮坂専務は? 他のお兄さん達は?」

「渉さんは沙紀さんを力にして、忍月財閥を出たいんだ。だけど俺や会社を守るためにあえて忍月に居てくれている。他の兄達も嫌がっていると聞く。だとしたら、俺しかいないんだ……」

「朱羽は当主になりたいの?」

「なりたくない。ならないつもりで、今後を考えていた。だけど俺が当主をしなきゃ、渉さんが強制的に連れ戻される。今、電話でそう言われたんだ。当主はまだ話せるうちに、後継者問題にケリをつけたいと。心労からかなり声が衰弱していたくらい、体調が悪いらしい」

 朱羽は自嘲気に笑った。


「二ヶ月、と言われていたのに、来週見合いだと言う!! 忍月の力に抗うための力を、まだなにもつけていないというのに!!」

 朱羽は両手をぐっと強く握りしめた。

 ああ、きっとシークレットムーンが窮地にあったからだ。

 だから朱羽は、自分の身よりも会社の救済を優先してくれていたから、なんの準備も出来ていなかったんだ。

「……俺が拒めば、渉さんと見合いさせると。多分、渉さんにも電話が行っていると思う」

「そんな、だったら沙紀さんは……」

「………。最悪、別れさせられる」

 鋭い目があたしに向けられる。

「わかるか、陽菜。忍月はそれほど容赦ないところで、渉さんと沙紀さんを犠牲にしたくなかったら、俺と陽菜が二の舞になる」

「……っ」

 朱羽か宮坂専務か、あたしか沙紀さんか。

 どちらかの心を切り裂いてまで、次期当主にならないといけないの?
 
 あたしは……、ただの朱羽が好きなのに。

 忍月財閥の当主なんていらない。香月朱羽が好きなのに!!

「俺が当主に確定したら、必ず結婚させられる。力をつけられていない今の状況、それを回避するのは……」

 朱羽はあたしの手を握って、静かに言った。


「あなたを俺の婚約者にすること」

「な!」
 
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