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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 
 
 俺の望みは、朱羽に語ったことで形になった。

 ああ、俺は。

 朱羽の恋を応援すると同時に、自分もそうでありたいのだと望んでいたことに気づいた。

 なんの陰謀も制約もなく、ただの男としてひとりの女を全力で愛せたら――。


――じゃあ渉さん、考えよう。俺と渉さんが、自由になって幸せになれる方法を。

 
 朱羽の目には、かつての自暴自棄だったものはなくなり、強い意志があった。

――ふたりで、幸せになろう。

 朱羽を変えたのは、カバだ。

 カバが欲しくて、朱羽は男になった。

 カバのために、朱羽は劇的に変わったんだ。



 脳死の親父が死んだ。

 対外的には泣きながら、裏では一滴の涙も零さずに本家に居座るあの女と、弟達を孫と認めながら、弟達の拒絶を受けて俺を次期当主にさせようと企み始めたジジイ。

 後で医者に聞いた。別々だが、ふたり共延命措置をやめてほしいといわれたと。

 ……妻と父親が親父を殺した。それが、忍月だ。

 目的のためには、血が繋がっていても生きながら殺される――。




 N.Y支社から本社に戻り、俺は頃合いを見て、あのジジイにも提案した。

 後継者争いをしてみたらどうかと――。


 俺の手の中で、朱羽が安全にカバを手に入れるための苦肉の策だ。

 そして俺が沙紀と共に忍月を出れるチャンスでもあった。

 他の弟達を巻き込んで、俺はこうジジイに言った。


――忍月を率いるようになるためには、練習台が必要です。俺がいるOSHIZUKIビルに、弟達全員を呼んで、その会社での仕事ぶりを見てみましょう。俺に勝る逸材がいるかもしれない。

 それはあの女の牽制も勿論ある。

 ジジイはこう言った。


――ならば孫達がいる各社に、忍月の力が及んだ者達を「監視人」として入れよう。もしも後継者として相応しくない動きをしたのなら、後継者としての力をすべて奪い、その会社も潰す。後継者の力がない者は、消えるのが常。

 つまり後継者候補として、業績を上げてカリスマ性があり、監視人のチェックがOKならば、次期当主になれる。

 だがなれなければ、すべてを奪われる。
 
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