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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

「渉? 大丈夫? まだ電話?」


 妾なんて絶対嫌だ。沙紀をお袋のような第二の女には絶対させたくねぇ。

 俺は部屋に入ってきた沙紀を抱きしめた。


「沙紀と離れたくねぇ……っ」


 朱羽が可愛いよ。

 朱羽とカバを応援したいよ。


 だけど俺は、愛おしいこの温もりを離すことはできなくて。
 
 ようやく、俺が忍月財閥の人間だということを認めてくれたのに。これから一緒に、忍月と戦おうとしてくれているのに、なんで俺、沙紀以外と結婚しなくちゃならねぇよ。

 忍月の力は偉大すぎる。

 俺のお袋のように、欲望のためにひとの命が儚く散る。

 それを凌げるだけの力が、俺にも朱羽にもまだない。早すぎるんだ。


 忍月の次期当主となれば幸せになれる――ジジイだけが思い描く予定調和のような未来に、俺達は血が繋がっているという理由だけで、屈しないといけないのか。

 俺達に自由はないのか。


「沙紀……っ」

「渉?」


 せっかく見つけた、俺達を変えてくれた愛おしい女を、手放さないといけないなんて、あんまりじゃないか。

 
 朱羽――

 お前は今、なにを思う?

 
 お前のことだ、お前が犠牲になろうとしてるんじゃねぇか?

 あれほど欲しがっていたカバの手を、離そうとしているんじゃねぇか?

 不安と怒りに、苛まれてはいねぇか。

 せっかくのふたりだけの夜だったのにな。


 俺が、予定調和の未来を変えるために、できること――。


 
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