この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
***
忌まわしきみゃーんは、突然入って来た藤色の老婆が連れて行った。
あの猫かぶり、あのおばあさんの前ではいい子にしているのか。
だからおばあさんはわからない。
あたしが、あのネコのおかげで空腹が解消されていないことに。
……いいもん、猫舌が飲めない淹れ立てのお茶と、美味しい茶菓子でお腹を満たすから!!
プライドにかけて、ネコに盗られたことは言いたくない。
茶道――。
正座しながら、点(た)てて貰ったお茶が入ったお茶碗が回ってきたら、正座をしたまま手をついてお辞儀をして、飲んだらくるっとお茶碗を回して、隣に渡す……くらいなら知っている。
六年前に新人研修みたいな形で、新社会人のためのマナー講座のようなところに、社長の強い勧めで結城と衣里と同期で行かせられたことがある。
社長、全然役に立たなかったよ。
「こんな感じだったよな?」
結城が宙で右手を手前から奥へ揺らす。
「え、奥から手前じゃ無かったっけ?」
あたしが反対側の動きをする。
「ま、まあどっちでもいいよな。回せば……」
「駄目です」
色っぽい格好をしているくせに、眼鏡がキラン!と光る朱羽。
「真下さん、流派は覚えてますか?」
「裏千家」
「だったら陽菜が正解」
なんだかよくわからないけど、あたしはやったと両手を挙げた。
「茶道には流派が沢山あります。中でも有名なのが、千利休の流れを汲む表千家、裏千家、武者小路家の三千家。流派によって、作法が変わる。襖の開け方も、畳の歩き方も、茶碗を回すのも……」
朱羽がそう言った時、給仕が来た。
「これを身につけて茶室においでくださるようにと」
それだけ言うと、さっさと帰ってしまう。
目の前には、赤系と青系……性別に分かれているのだろう、小道具があった。
「おっ、扇子があるっす! それとあぶらとり紙とそれをいれる袋っすか?」
すると衣里が盛大なため息をついた。
「あぶらとり紙ではなく懐紙。茶菓子を貰ったら皿代わりにするの」
確かそんなことをした記憶があるが、六年前の記憶は朧だ。
「……帛紗(ふくさ)がない」
朱羽が腕組をして言った。
「帛紗の色や大きさで流派がわかると思ってたけど、それを隠したいのか?」
訝しげな顔だ。