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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

「……素性を明かさなくても、あなたは居場所があったの?」

 真っ直ぐに見つめた彼女の目に、衣里は静かに頷いて微笑んだ。

「はい。月代が作ったこの会社の皆が、家に押し潰されそうになっていた私の、新たな家族です」

 そのはにかんだ仕草は本当に綺麗で。

「衣里姫……」

「だから姫は却下だって、陽菜!」

 笑いが起きる。

「忍月財閥と真下家。そんな血筋のひとが揃っているの、月代さんの作った会社には」

「私は名前負けしていますが」

 朱羽が笑うが、誰もが頭を横に振っている。

「あの、藪内(やぶうち)流の流れも汲んでいるんですよね?」

 衣里は話題を変えたいかのように、話を戻した。

「そ、そうね。藪内流というのは、武野紹鴎の弟子で、千利休と兄弟弟子にあたる藪内剣仲(やぶうち けんちゅう)を流祖としています。剣仲は古田織部の妹を妻にしており、婚儀では千利休が媒酌人を務めるほどに、千利休との親交を深めていたとか。また、剣仲は武士の出身です。そのため武士の精神が流れる藪内の点前は、武家茶道に通じるものもある。藪内流も上田流のように男女別の点前があり、男点前は居合いにも似た動きもあります」

 名取川文乃はあたし達を見渡した。

「名取川流は、武家の精神が息づき、茶道をするにあたって心構えを重要視しています。心がなければ、美味しい茶は点てません。美味しいお茶を飲むことも出来ません。緑の絵の具を湯で溶かしたような奇怪なものを飲んでいるように、相当にまずいものとなるでしょう」

 そして彼女はあたしを見る。

「鹿沼さんは動と静を仰いました。茶を点てることを動とするのなら、客である彼女は静になるのだと。美味しい茶を飲むことに、作法は必要ないのではないかと」

「は、はい……」

 あたしは臆しながら返事をした。
 
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