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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
  

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 病室のドアを閉めると、廊下は暗闇に包まれ、常夜灯のぼんやりとした明るさだけが頼りになる。

 さっきまでは四人でわいわいしていたから賑やかだったけど、今は物静かな朱羽と二人だからやけにしーんとしている。

 朱羽に話しかけようとしたら、朱羽が手を繋いできた。

 なんだか手を繋ぐのが平生となっても、朱羽の手の温もりと触れあうとやけにドキドキする。

 もっと凄いことをしているというのに、照れ照れしてしまうあたしの横で、朱羽は無言だった。

 話しかけても返事は返るが、どこかよそよそしく。

 病院から出ると、厚雲に覆われ星も月も見えない暗い夜空に、人工的な街路灯の明かりが、やけに寒々しく思えた。

「ねぇ、朱羽。バルガーふたりで行くの何年ぶりだろうね」

「ん……」

「朱羽はあたしにくれたあのプリン、どこのバルガーで買ってきてくれたの?」

「ん……」

 心ここにあらず。

 手を強くにぎにぎしても返るものがなく、あたしは足を止めた。

「元気ないよ?」

「え?」

 朱羽が初めてあたしを見た。

 街路灯の光を浴びた朱羽の端麗な顔。光に照らされていない部分は、こんなにも凄惨に思えるほど翳っている。 

「どうしたの? 名取川家でお寿司食べたり、お茶を飲んだ時は大丈夫だったよね。名取川文乃がちゃんとしてくれるか、不安?」

 車のヘッドライトが流れる。

 東京は、街路樹という覆いが無ければ、一瞬にして不夜城の景色を見せる。夜の十時であっても眠りに就かない街だ。

「やっぱり忍月と戦うのが、不安?」

「そうじゃない……」

 暗闇に浮かび上がる、妖しいまでの美麗な横顔。

 闇の中でも、彼の黒髪は艶めきを高めて。

 人工的な光が、朱羽の眼鏡のレンズを青白く光らせる。

「じゃあ教えて? 頼りないかな、あたし。……そりゃあお魚の名前を漢字で書けないし、お茶のことなんてさっぱりだけど……」

「そうじゃない、そうじゃないんだ」

 朱羽が、あたしの手から離した片手で前髪を掻き上げる。
 
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