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ホントの唄(仮題)
第2章 緊急モラトリアム

 女はベッドに寄りかかると、まだうつらうつらと眠そうにしている。


「オイ……飯」


 と、仕方なく声をかけると、鼻をひくっと利かせて女は背筋をピンと伸ばした。そうしてから用意された朝食を眺めると、甚く上機嫌に言う。

 
「うわっ! いいねー! 朝は、こうでなくちゃ」


「そりゃ、どうも」


 ごく簡素なメニューでこうもテンションを上げてもらえれば、俺も悪い気はしなかったが……。


「あ、醤油ちょうだい。私って、さあ。納豆大好きなのね。あと、やっぱりご飯と味噌汁。おかわりは、あるよね? これで、焼き鮭なんかあったら完璧だよ。それとさ――」


「オイ、話はいいから……よそ見しないで、食え。あ、ほら――こぼすなよ。そこに、パソコンあるから気をつけろ――って、言ってる側から、醤油がこぼれてんじゃねーか!」


「あ、ゴメンゴメン。はい――拭いたから大丈夫っと」


「大丈夫じゃねーよ。醤油臭いパソコンとか、あり得ねーから」


「いいじゃん、細かいことは。ほら、オジサンも食べなよ」


 くっ……!


 今、はっきりとわかったことがある。何処までもマイペースと貫くこの女ことが、俺は嫌いだ。

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