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ホントの唄(仮題)
第2章 緊急モラトリアム

「誰かに頼りたきゃ、そうすればいい。だがな間違っても、それは俺なんかじゃねーだろ」


「違うよ」


「ん?」


 真は顔を上げ、俺を上目使いに見つめる。


「昨日の夜、私ね。この部屋に来るまで、オジサンの背中を見てたよ。なんか、とても寂しそうな背中だった。この人は、寂しい人なんだって思った」


「まあ……この歳で、独り者だからな」


 何となくバツが悪く感じて、俺は真っ直ぐなその瞳から目線を外した。

 しかし、真は言う。美しき、その声の音色で。


「そんな風に、誤魔化さなくてもいいの。オジサンは、寂しさを知ってる。だから、人に――私にだって、優しくできる。オジサンはちゃんと――優しい人なんだよ」


 その刹那――


「――!」


 隠していた古傷を、そっと撫でられたような不思議な感覚が、確かにあった。

 俺はハッととして、また――真の顔を見据えている。



「だから、一緒にいてあげるの。だから、一緒にいさせてよ」



「……」



 真は一点の曇りのない、漆黒の大きな瞳をしていた。


 その言い様は、まるで理屈にかなわずに。とても無茶苦茶なもの。


 それでも何故か――俺の心根の奥底までに、届いてしまっている。


 否――届かせるだけの何かを、その響きは持っていたのだ。

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