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淫徳のスゝメ
第4章 私が天涯孤独になったこと





 禍々しい芸術品が完成すると、私は有本さんに連絡した。

 数ある肩書きに警視総監を含む彼女は、いかにも休暇中らしいゆったりとした装束を泳がせて、仏野の屋敷に駆けつけた。


「お呼び立てして申し訳ありませんわ、有本さん」

「姫猫の連絡ならいつでも歓迎よ。それに、私の仕事のようね。随分と愉快な大惨事だこと……」

「ええ、実は──…」



 まづるは自己紹介もそこそこに、有本さんにことの次第を説明した。

 有本さんは容疑者の供述が続く間、もっぱら彼女の肉体やお父様の惨状、お母様ときよらの不可解なな体勢に興味を示しているようだった。





「なるほどね。まづるさん、貴女は姫猫が父親に性的暴行を受けていたのも、家庭でいやな思いをしていたのも、まりあさんが原因だと考えて、自害に追いつめたの……。そして、まりあさんだけでは飽き足らず、聖司さんまであんな姿にしてしまったと」

「はい。私の一時の憤慨の所為で、姫猫の身内を三人も酷い目に遭わせてしまいました……。仮にも高貴な血を引く彼らがこんなことになってしまえば、きっと世間は黙っていません。世間は、目に見える悲劇を嘆いて、その元凶を根拠もなしに悪党と名付けて糾弾してこそ快楽を得る魔物ですもの。私は後悔していません。この程度で姫猫の痛みは言えないだろうけれど、少なくとも、今後彼女が暴虐に遭うことはなくなります」


 有本さんは、おもむろに思考する素振りを見せた。


 結論は出ている。

 彼女について、そうした確信が持てるだけ、私は有本さんを知悉していた。
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