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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと





 評価を得る術には長けていた。

 仏野の血統に相応しいマナーを嗜み、学問に励み、私は生家の力に頼らないで優等生の地位にいた。お姉様が道を踏み外しさえしていなければ、私の正当は今も悪徳によって踏みにじられることはなかったろう。


 映画やドラマのつっぱりを気取った人物は、よく、人間を二種類に分けたがる。裕福層と貧民、使う者と使われる者、強者と弱者がその相場といったところか。

 間違っている。

 確かに人間は二種類しか存在しないが、それは白痴とエゴイストだ。


 女は私が惨めに喘げば悦ぶ。男はペニスに脳みそがある。そして、彼らは絶対的な精神の充足、物資の豊潤を望んでいる。少なくとも例外は、私はお母様の他に知らない。


 お母様こそ、神様だったのかも知れない。


 さればこそ、お姉様にもお父様にも、お兄様にも神様の声は聞こえなかったのだ。あれだけ近くに在りながら、愚かで自己中心的な彼らは、彼らにとって不都合な真理から目を背ける。





 私は正しい。

 神様の、お母様の声を忘れない。愛せば愛するだけ愛される。お姉様には皺寄せが、私には救済が、いつか必ずの訪うはずだ。



「店長……いかがですか……私、少しは成長しましたか……?」

「ぐぅぅっ、はぁっ、ああ!ああ!はぁっ、最高だ!最高だ!もっとしゃぶれ!!出すぞ!!腹いっぱいぶち込んでやるぞ!!」

「出して下さい……んんっ、私にご指導下さい……てんちょぉっ…………」



 私は不幸だ。


 頭の弱い女生徒やら教師やらの奇行に付き合ってやった過去、こうも浅ましく愚かな男に支配されている今この時、いずれも私は彼らを微塵も恨んでいない。善良だ。出生、学歴、人間性、全てにおいて秀でた私は、彼らを憐れんでさえいる。


 これが愛や幸福への貯蓄と思えば、破滅へ向かうお姉様とは正反対、甘美な茶番だ。
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