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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと



 代々、仏野の当主は異性間の結合によって生じる化学反応から次世代の遺伝子を生成し、この血統を繋いできた。

 お兄様も例にもれなく、結婚という反自然的な仕事は回避のしようがなかった。



 ただ、私は結婚式だけは猛反対した。



 結婚式。

 それは、表向き特定の人間が特定の人間を書類で桎梏することを宣言し、新たな世帯の誕生を祝福する式典であって、実際には当人達の目上を自負する者、親族やら恩師やらが気持ち良くなるためのサービスだ。いかにもめでたいモチーフを盛って、チャペルでは神父が、披露宴では司会、列席者らまで、愛だの恋だのに恋をする。

 そう、彼らが恋しているのは、愛だの恋だのという理想そのものなのだ。

 彼らが祝福しているのは、二人一組を自称する人間が指輪を交換する行為、彼らは、歴史の祖先が推奨したことを一緒になってめでたがる結束感に満足する。



 私は、お兄様まで恥を晒す必要はないと諭した。

 お兄様は反駁した。


 お兄様が結婚式を挙げるのは、蒙昧家達の浮かれた姿を腹の底から見下すためだ──…と。





 かくて今、私は市内の一流ホテルにいる。


 シャンデリアの炫耀を吸った赤絨毯に散らばる披露宴待ちの客達の中に、有本さんや、私と一緒に結婚前夜までお兄様をからかったまづるの姿もあった。
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