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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと



「なんて罰当たりなこと。呼びつけて折檻したいわ」

「無理だよ、姫猫。相手が庶民でも、精神だけは私達の自由にすることは出来ない。まして肉体がそれに準じているなら。私達は快楽に相手は関係ないけれど、性別は関係あるでしょう。好きになったのが偶然女だったとか、偶然男だったとか、さも自分が一途な人間であるような、恋する女の常套句を哀れんでいる。それと同じで彼女は快楽に相手が関係してるんだ。昔、クラスメイトに貴女は男を知らないだけだと偏見をぶつけられた子がいてね、私達がいたのは共学だったし、全く理性のない偏見だったわけ。もちろん彼女には男子生徒が見えていたし、彼らと会話もしていたわ。彼女が男を試してみたところで、ハマっていた気はしない。だから私も、蓮美さんの使用人については、彼女の自由を桎梏しては色消しだと思ったの」

「確かに、私達のように高貴な人間にとって他人をねじ伏せることは容易い。だけど精神まで決めつけては、それこそ下品な詭弁家達と同じになるわ。その点、お母様は生まれ育ちが疑わしいものだった。お父様が彼女を見限った事実だけを認めれば良かったものを、私を可哀想だの背徳的だの、彼女の倫理は強情だった」

「ええ、そうね。まりあは下品な女だったわ。上品ぶって、綺麗事を並べてばかり、神を研究する身として、何とか道を正してあげたかったのに……」


 私とまづる、蓮美先生は頷き合った。


 蓮美先生にお母様の死没を知らせたのは、昨夜の電話だ。お兄様の婚姻を鼻で笑いながら祝福したのと同様、蓮美先生は、やはりお母様についてもこみ上げる笑いを殺しながら哀悼した。



 私は、蓮美先生がまづるにどれだけ請求したかを笑って訊ねた。

 するとまづるは、例の不感症の女が蓮美先生に返済せねばならなかっただけの金額だと答えた。女の身柄は解放された。


 庶民は庶民らしく、分不相応なものに手を出したのであれば、そのあとは庶民以下になり下がり、這いずり回れば良かったものを──…。


 私は、顔も知らない女をブーケに変える空想に耽った。嚥下する部位は、無論、まづるが触れた肉叢だ。
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