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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと


 私は自ら恍惚に達した。小刻みに慄える律子の肉体、荒くなったかと思うや、次第に薄れてゆく呼吸、そして今しがたの私の絶叫をかき消すほどの叫喚が、律子の心拍を停めた。


「…………」


 私は、律子の耳朶の裏から針を抜いた。薬は拭えて、赤いものが付着している。

「…………」

 鉄錆臭い、甘い味だ。

 私の性器はまたぞろ物足りながって疼いた。



「姫猫様。奥様達はお休みになりました。メイド達が待っております」

 扉が開くと、丸井が二人の女を従えていた。かつて私を心棒していた、お兄様が余分に送りつけてくれたメイド達だ。


「この女を調理して。唇が食べたいわ」


 二人は律子をブーケに変えた。私は丸井の車に乗って、花のほとんどを山に還した。戻ってくると、極上の食卓が調えてあった。私はメイド達にキスをして、ブーケの中でも最上級に気に入っていた花を平らげた。肉厚の花は私の舌の上でとろりとほぐれて、あえかに喉を通り過ぎ、かつて私の暇を満たしたように腹を満たした。





 翌朝、二人の女の逮捕が世間を震撼させた。

 殺人鬼達は隣町から訪った、どこぞの富豪の使用人で、屋敷を解雇された腹いせに、民家に入って娘を殺害、山に遺体を隠したのだという。遺体は唇が引き千切られていた。哀れな女は小野寺律子、一日前まで世間の顰蹙の渦中にいた人物だ。残された配偶者は涙に暮れて、愛する女の凄惨な最期を見たショックで蒸発した。…………

 世間は殺人鬼達を罵って、元学芸員とその配偶者に同情を寄せた。

 マスコミ関係者達は近隣住民らに熱心に取材し、亡き二人の女の美しい愛の物語を競うように報道し、世間はそれに涙した。

 彼らが謗った企画展は、そののち高く評価されたらしい。内容そのものの充実、そしてあれだけの動員数が見られたものは、あとにも先にもなかったという。
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