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果てのない海に呑まれて
第10章 兄と弟と母と。



「と、言われたけれど……自分で直接行けば良いじゃない」



喜んだ割にはリリアはミゲルの横で文句ばかり言っていた

下ろした髪

これを上げさせてもらえなかったことも、彼女の不満の一つらしい



「まだそんなことを気にしているのか。大丈夫だ、こうして庶民の格好をしていればそんなこと誰も気にはしない」

「そういう問題じゃないのよ。恥ずかしいの」

「何故だ? よく似合っているのに」

「似合ってるって……」

「女は自分に合う格好をするのが一番だ。その髪はとても……良い」



初めて自分の意見を述べたミゲルに驚いてリリアは目を丸くした

ミゲルは急いで彼女から視線を逸らす



「……レオンが、そう言っているからな」



人の話を聞くのは得意でも、自分のことになるとテンで駄目なようだ



「レオンが直接行かない理由だが」



かなり不自然に話題を変えた



「行かないというより、行けないんだ」

「え?」

「ファルツの人間はいつ何時襲われるか分からないからな」

「そんな……」



確かに身分あるものは貧民などからしてみれば腹立たしいだろう

だがこのアウスグライヒの人々はーーー


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