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果てのない海に呑まれて
第10章 兄と弟と母と。



屋敷の奥深く、レオンは重厚な扉の前に立ち深く息を吸った



「母上、いらっしゃいますか? お加減が宜しければご挨拶をと……」



扉がーーー滅多に開けられることがないのだろうーーー軋んだ音を大きく立てながらゆっくりと左右に開いた

暗すぎるその部屋にレオンはそっと足を踏み入れる



「ああ、やっと来てくれたのね!」



奥から一人の女性が駆けてきてレオンの首に腕を巻き付けた



「母上……」

「いつ喚んでも忙しいと断るばかりで、全然顔を見せてくれないのだから」



少し体を離すと、深い隈のある窪んだ目でレオンを見つめ愛しそうにその頬を撫でる



「フェリペ」

「……っ」



レオンの顔が僅かに歪む



「母上、私は……」

「とにかく椅子に座って。

本当に、なんでそんなに来てくれないの。レオンは仕方ないけれど……」



言いながら虚ろな目で窓の外を見た



「でももう秋ね。秋には帰ってきているはずなんだけど……もう何年も会っていないのよ」

「……挨拶するように言っておきましょうか」

「良いのよ、あの子は自由にさせておいてあげて。本当に海が好きで、ファルツ家のことなんてまるで考えていないのだもの」


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