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サイドストーリー6
第9章 夢を見るころ
そんな心配をしていると、経管の楠さんが経理に顔をのぞかせた。
「忙しいところすみません、篠塚さんちょっと」

部外者の声かけでほんの少し部の雰囲気が緩んだ。

数分して席に戻った篠塚さんはいきなり帰り支度を始めた。

「悪い。急用ができた。その資料必ず今日中に仕上げろよ。
部長すみません。明日の朝一にはお渡ししますので」

明日の朝一で部長に出す資料の重要さは部のメンバー全員が知っていたので
仕上げないで帰るのはよっぽどの事だと判断した上の人が
「篠塚、何かあったか?資料は他の奴に回すか?」
と声をかけた。

「あ、プライベートなんで。明日始発で来て仕上げます。
すみません。ありがとうございます」
と、退社しようとしたところで

「無理するな。急用なんだろ?俺たちで何とかするよ」
とまた声がかかった。
「あ、いや、あの。彼女がサプライズで家に来ているようなので。
近頃会えていなかったので、とりあえず帰ります。お先に失礼します」

そう言って振り返りもせず帰って行った篠塚さんの後姿を
全員がぽかんと見つめた。

「ああ・・・この彼女ね」

部長がパソコンの広報部の共有ホルダーに入っている画像を映し出した。
いつだったか、いつもの居酒屋で広報の新人君が撮ってくれた写真だ。

「こんな顔の篠塚は俺だって見たことないな」

部長がそう言いながら笑うから
ほとんどの部員が自分のPCにその画像を映し出した。

仕事を残して篠塚さんが慌てて帰る彼女。
見た事もないような顔で笑いかける彼女。

羨ましいな―――

篠塚さんへの恋心はそっとしまいこんだ。


END****

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