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横浜発 7:54
第6章 下
「さくら、好きだよ」

そう言って一瞬身体を離した矢野さんは
私のあごを上に傾けて、キスをする。

平日の10時に、ワイシャツ姿の矢野さんと
仕事用の服を着ている私が、海で抱き合ってキスをしている。

ちょっと排他的な空間で、潮の匂いだけが私たちの唇に迷い込む。

「海に行きたいって、言ったこと覚えててくれたのね」
次のデートはどこがいい?
そう聞かれた時『海』と答えたそれを覚えいてくれたことがうれしかった。

「二人で会うのは最後になるかもしれないと思ったから。
約束は、守りたかったんだ」

人は本当にまばらで。
いわし雲が気持ちよさそうに空を覆う。

ああ。この人が好きだな。

キスをしながらそう思った。

「来年の夏に、また来たいな」
「あぁ。そうしよう」

そして、未来の約束をする。

ずっとこの人とこんな時間を共有したい。

「さくら。海にはまた連れてきてあげるから・・・」
「ん?」
「そろそろ行こうか」
「どこへ?」

まだ矢野さんには行くべきところがあるらしい。

「もちろん・・・」

矢野さんは恥ずかしげもなく、にやっと笑って
私の目の前に手を差し出した。

「さくらを抱きに」

その手を取って笑いながら立ち上がった私の耳元に顔を傾けて
「もう我慢できない」
そういって耳たぶをかんだ。

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