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令嬢は元暗殺者に恋をする
第2章 出会い
 王都アルガリタへと向かう途中に広がる森林地カーナの森。
 鬱蒼たる森の中を一台の馬車が塵とほこりをまき上げ、走り抜けていく。

 馬車は小さめながらも立派なもので、車体は艶やかな漆黒色に塗られ、金の蔦模様と花の図柄が描きこまれていた。

 あきらかに、身分ある者を乗せている馬車であろうことは確か。

 その馬車の中、サラは窓枠に頬杖をつき流れ行く外の景色をぼんやりと眺めていた。

 足下には脱ぎ散らかした靴。
 アルガリタの名門貴族、トランティア家の令嬢にしてはいささか不行儀ともいえる態度であったが、馬車の中はひとりきりさだったため、誰も彼女を叱る者はいない。

 開け放たれた窓から流れ込む風が少女の緩やかに波打つ鳶色の髪を揺らし、白い肌をなでていく。

 年の頃は十四、五歳。透き通るような肌に、頬はほんのりと薄紅色。
 唇もまた同じ。
 まつげからのぞく瞳は髪と同じ色。
 可憐という言葉がぴたりとあてはまる少女であった。

 サラは深いため息を落とす。

 私には自由のひとつもない。
 本当は今日だってメイルの都で開かれるお祭りを見に行くつもりだったのに。

 もちろん、反対されるのはわかりきっていたから、こっそりと屋敷から抜け出してきた。
 だが、メイルの都に辿り着く直前、追いかけてきた護衛たちに見つかってしまい、こうして屋敷へと連れ戻されているところであった。

 彼女の脱出癖は今日に限ったことではなく、その度に連れ戻され今度こそ逃げ出さないようにと、部屋を移動させられたり監視の人数を増やされた。


 これでは、次こそは檻つきの部屋かもね。


 そんなことを考え、再び重いため息をつく。

 延々と続くかに思われる鬱蒼たる森の、変わり映えのない風景がサラの虚ろな瞳に消えることなく映しだされていく。

 ふと、サラは目を瞬かせた。
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