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令嬢は元暗殺者に恋をする
第19章 戸惑う気持ち
「どこに行っていた?」

 聞かずとも知っているはずなのに、シンはあえてサラに問いつめる。

「ハルに会いたくて」

「それで、約束を破ったのか?」

「……」

 謝らなければ……そう思うのに、声がでなかった。
 まともにシンの顔を見ることができなかった。

「あんたは二度とあそこには行かないと俺に言った」

「それは……」

「あの言葉は嘘だったのか? それとも、最初から俺を騙すつもりだったのか?」

 シンの厳しい視線に耐えきれず、サラはうつむき、テオの後ろにこそっと隠れてしまった。

「俺は言ったはずだ。約束を破ったら本気で怒ると」

「ごめ……」

「謝ってすむ問題じゃねえ!」

 シンの一喝にサラはびくりと肩を跳ね、震えながらテオの背にしがみつく。

 思わず涙がこぼれ落ちる。

 いつものシンじゃない。
 あんなに怒ったシンなんて見たことない。
 どうしよう。

「泣いて許されると思うな。あんたにもしものことがあったら、先生やこいつがどれだけ悲しむか考えなかったのか」

 ハルにも同じようなことを言われた。

 今回の、私のわがまませいで、ほんとうにたくさんの人に迷惑をかけてしまった。

 確かに自分に何かあったら、先生やテオがどんなことになったか。そう思うと今更ながらに恐ろしさに震えた。

 すでに日もすっかりと沈み、辺りは薄闇に包まれ始めている。
 通りを行く者が何事かという顔で、こちらに視線を向けながら通り過ぎていく。

「まあ、今日のところはこうしてサラも無事に戻ってきたんだ。彼女も疲れているだろうし、もう休ませて」

 引きつった顔でテオは辺りを気にしながら、まあまあとシンを宥めるが、シンの怒りはおさまらないようだ。

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