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令嬢は元暗殺者に恋をする
第37章 それでも、あなたが好き
 怖くないといえば嘘になる。
 不安もある。
 けれど、一生ついて行きたいと思える人に出会えた。
 この人の手を離したら間違いなく後悔する。
 いいえ、もとより離すつもりなどない。
 だから……何度問われても答えは同じ。
 決してこの気持ちに揺るぎはない。

 サラは否と首を振り、ハルの深い藍色の瞳を見つめ返した。

「引き返すつもりなどないわ」

 その瞬間、わずかだがハルの顔に痛切なものが過ぎったのをサラは見逃さなかった。

 本当に優しいのね。
 最後の最後まで、私の身を案じてくれている。
 私、ハルと一緒なら何も怖くないわ。

「聞いてもいい? ハルのいた組織は……どういう組織なの?」

 眉根を寄せ、ハルは静かに視線を斜めに落とした。

 いつも強気で人を射るように、時には見る者を惑わす色香をたたえるその瞳が、いつになく揺れている気がした。

 伏せたまぶたを縁取るまつげまで、震えているような。
 こんな状況だというのに、それでもハルの顔がきれいだと息をするのも忘れて思わず見とれてしまう。

 長い沈黙が落ちる。
 恐ろしいまでの静けさがこの場を支配する。
 夜空に浮かぶ月に雲がかかったのだろう、不意に室内に闇が落ちた。

 相手の表情すらわからない暗闇に不安を覚え、ハルの存在を確かめるように握りしめていた手の指を絡める。
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