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令嬢は元暗殺者に恋をする
第79章 戦い -5-
 口の中で、すっかりと溶けてしまった薬を飲み込む。

 もちろん、自分の身体に薬は効かない。

 飲み込んだ瞬間、それまで身にまとっていたハルの殺伐とした気配も消失した。

 胸にすがりつくサラを見下ろす藍色の瞳はどこか悲しそうで、切なげで、嫌いと言われたことが自分でも思っていた以上に堪えたのだと気づいた途端、後悔という思いが胸に押し寄せた。

 サラ、と呼びかけて頬に手を添え顔を上向かせる。
 今にもこぼれ落ちそうな涙を指の先ですくいとる。

「あんた、自分の恋人なのに容赦ないんだな」

 ぽつりと呟く少年の声。そして、少年の目がサラに向けられた。

「ねえ、お姉さん。どうして俺なんかをかばってくれたの? お姉さんにとって俺は敵なのに」

 サラは何を言っているのかわからない、と首を振る。
 ハルはやれやれといった態で肩をすくめた。

「そいつは、どうして自分のことをかばうのかと言っているよ」

「そんなのあたりまえだわ! だって、あなただって本当はこんなことしたくてしたわけではないのでしょう? 組織の命令で動いただけなのでしょう?」

 今度は少年の方が首を傾げ、そろりと遠慮がちにハルを見る。
 俺にもサラの言葉を訳してくれないかと目で訴えかけているのだ。
 ハルは苦笑しつつも、サラが言ったことを繰り返し少年に聞かせた。

「それは、そうだけど……でも、そんなの理由にならないよ。だから、もういいよ。いいんだ」

「ねえハル、私に考えがあるの。この子からいろいろ聞き出して、ファルクが暗殺者を雇ってハルを殺そうとしたという罪を明らかにするの」

 少年を助けようとするがため、思いついたことをそのまま口にしたのだろう。
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