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令嬢は元暗殺者に恋をする
第86章 思いがけない、つかの間の再会
「あの子のことをよろしく頼みますね。少し強情なところがありますが、根は優しい子です。でも、そうですね。もし、あの子が意地をはるようなことがあったら、口を利いてあげないとでも言ってあげると効果的ですよ。特にあなたなら、なおさらでしょう」

「ハルはとっても優しいわ。でも、意地っ張りなところは確かにあって、私その時、ハルのこと大っ嫌いって思わず言ってしまったの」

 カーナの森でハルが暗殺者たちを倒したあと、ひとりで去っていこうとした時だ。
 レイはおかしそうにくすりと笑う。

「それは、あの子もこたえたでしょうね」

 そうよ。
 私、この人に以前会ったことがあるわ。
 そう、あれはずいぶん昔、私がまだ幼かった頃。

「ねえ、私の思い違いかしら。昔、あなたと会ったことがあるような気がするの。私がまだ小さかった頃、お屋敷の庭の片隅であなたはとても具合が悪そうに木に寄りかかって座っていた。私、持っていた飴をあなたにあげたわ。これ食べて元気出してねって。そうよね?」

「もちろん覚えていますよ。あの時、あなたが差し出してくれた飴の味は今でも忘れられません」

「やっぱり……やっぱりそうなのね」

「小さくて可愛らしかった女の子が、きれいになられましたね」

 レイはそっとサラの肩に手をかけた。

「幸せになりなさい。サラ」

 レイはふわりと笑い、去っていってしまった。

「じゃあ、またねー。今度、お茶しようねっ!」

 と、サラとキリクに無邪気に手を振り、クランツもレイの後を追いかけていく。

「待って、レイ! 待って」

 しかし、レイが振り返ることはなかった。
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