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kiss
第1章 kiss

 バレンタインの熱気を上塗りするように、男子が気負い始める白い日がやってくる。
 オレは有紗じゃない、今の彼女へのお返しを選びに地域で最大のショッピングセンターに来ていた。
 目がチカチカするほどの装飾に早くもげんなりしていると、奥に見知った顔を見つけた。
「瑞希じゃん!」
 チョコを手にして俯いていた影が顔を上げ、キョロキョロ見回す。
 オレがポンと肩を叩くと、ビクッとしながらも笑顔になった。
「びっくりした……金原か。久しぶり」
 卒業式以来だ。
 瑞希の後期試験が終わるまでは遊ばないと約束したので、会っていなかった。
 少し髪が伸び、入院していた頃よりは血色が好くなった。
「有紗に?」
「ちげーよ。今の彼女に」
「ずっと放っておかれたのにチョコくれたのか」
「それは言うな……」
 瑞希が退院してから、初めて彼女の写真を見せたとき、余りに驚かれて動揺した。
 曰わく、オレが有紗と寄りを戻すと予感していたらしい。
 ありえない。
「瑞希は? 妹さんに?」
「それもあるけど……」
 家族にあげるにしては豪壮なチョコを持っている瑞希。
「あぁ……そっちか」
「先生からかなり高価なやつ貰ったから迷ってて」
「返さなくていいんじゃねーの?」
「それはなし」
 回復してから開かれた食事会で、オレははっきり悟った。
 二人共、認めたと。
 まだ体がフラつく瑞希を支える手に今までにはない優しさが漂っていた。
「んー。なんか良いのないかな」
「ていうか、甘いの食べれるのか」
「先生? そういえば、あんまり見たことないな。いつもワインばっか飲んでるし」
「ワインにすれば?」
「銘柄とか詳しくないから……」
 オレは言ってから頭を押さえた。
 なぜ、オレが類沢へのお返しにアドバイスしなければならないのか。
 今の状況を理性で判断しないように努める。

「あれ? あそこにいんの、アカじゃない?」
 瑞希の指を辿ると、周りから浮いた赤髪が揺れていた。
 それを追って隣の店に入ってゆく。
 オレは瑞希と目配せして、そうっと背後に忍び寄った。
 二人で肩を掴むと、彼は持っていたものを落としてしまった。
「ああっ、おい。大丈夫か」
「……圭吾。やっていいこととやっちゃいけないことがあるよね」
「瑞希! 瑞希も共犯だって!」
 アカの低い声に焦る。

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