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kiss
第6章 ignorant

 怖い。
 朋に会いたいのに。
 現実を見たくない。
 繁みは随分奥まで続いている。
 朋の着物も抱えて歩く。
 ガサッ。
 音が鳴る度にそちらを見てしまう。
 「早く」
 少年がついてきている。
 もうすぐ繁みを抜けてしまう。
 一体どこに朋はいるんだ。
 話し声がする。
 なにかおかしい。
 振り返って尋ねようとした時だ。
 トンッ。
 背中を押された。
 「案内はここまで」
 そういって少年は泣きそうに笑った。
 「ばいばい」

 地面に転がる。
 すぐに声が上がった。
 「どっ、どうしたのこの子!」
 「わからない、いきなり……」
 誰の声?
 車がある。
 黒くない。
 「君、大丈夫?」
 「病院に連れていきましょうよ、熱もあるわ」
 ここ、外?
 おじさんの仲間じゃない。
 この人たちは優しい?
 ー案内はここまでー
 ばっと繁みを振り向く。
 闇に沈んだ景色に少年は見つからなかった。
 「一人?」
 女のひとが言う。
 一人。
 ぼくは、一人?
 「おいっ、そこに倒れてる子がいるぞ」
 顔を上げる。
 もしかして…
 「しかも裸だっ」
 急いでそっちを確める。
 「息が……」
 そんなはずない。
 目を瞑って倒れた少年。
 「朋……」
 着物を被せかけて顔に耳を近づける。
 息、してない。
 「あなた、心臓マッサージしなさいよっ!」
 「わかってる」
 男の人が朋の胸に手を当てる。
 「下がってなさい」
 女のひとに引き離された。
 「やめてっ」
 「悠はね医者なの。助かるかもしれないわよ」
 「え……」
 息を切らしながらもマッサージを続ける男の人を見守る。
 朋。
 助かってよ。
 絶対だよ。
 家に、帰ろう?
 「人工呼吸だ」
 フーッという力強い息が朋の体に送り込まれる。
 「まだよ」
 「くそっ。助かってくれ」
 もう一度。
 もう一度。
 ダメなの?
 いけないの?
 そんなはずないよ。
 だってもうあそことは違うんだから。
 「朋っ」
 「……けほっ、ごほ」
 「朋!?」
 咳き込んで、細い両手で口を押さえる。
 ゼイゼイと息を吐きながら、朋はぼくを見上げた。
 悠さんが座って笑ってる。
 女のひとも。
 そして、朋も。
 「雛」
 「……ん?」
 満面の笑みで。


 「見つけた」
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